海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2012.04.16 2012:04:16:18:24:05

 ふたつの「死因究明に関連する法案」が提出された春。あるいは「麻雀トライアスロン・雀豪決定戦」と「第70期将棋名人戦」など。

 Aiを診断する専門家システムを作らないと、法医学分野が数多くの虐待を見逃してしまいます。実例が拙著『死因不明社会2 なぜAiが必要なのか』の99ページにあります。司法解剖では問題なしとされた症例のAiを、専門家が読影したところ、頭頂骨に古い骨折痕が見つかり、両親は起訴されたのです。Aiの情報を元に解剖写真を見直すと、骨折線が認められました。つまり司法解剖が虐待を見逃したのです。けれどもこの見落としで法医学者は非難も弾劾もされていません。
 

 やはり拙著『日本の医療 この人を見よ――海堂ラボvol.1』で紹介した、木ノ元直樹弁護士の話では「精神科病院で医療行為のために拘束帯で拘束していた患者をシャワーを浴びるために拘束を解いて連れて行ったら急変し、死亡した」という事案が医療事故裁判になったそうです。「病院が警察から解剖の結果を間接的に聞いたところによれば、拘束帯によって頸部を締められたことによる窒息死の疑い」だったそうです。その後、裁判時に証拠提出された鑑定書は驚くべきものでした。司法解剖では頭部、胸部、腹部という三体腔を開かなければならないのに、頭部解剖が行なわれていなかったのです。その裁判では「鑑定書の鑑定」が行われ、著名な法医学者が「この解剖は司法解剖の名に値しない」という明解な回答をし、司法解剖結果は証拠採用されなかったそうです。
 

 ひどい話ですが、その法医学者がその後、責任を取らされたという話は聞きませんし、そもそもメディアがこのひどい話を報道していないので問題の存在すら認知されていないわけです。
 

 これが司法解剖の現状です。
 

 つまり法医学者はいい加減に死因究明しても、誰からも非難されない無法地帯の住人なのです。
 こんな居心地のいい立場は手放したくないという気持ちはわかります。道理で自分たちの適正さを監査することになりかねないAiを手中に収めようと躍起になるわけです。会社でいえば社長が監査役を兼任したがるようなものです。個人商店ならいざしらず、日本全体の社会システムとしては、あまりに稚拙な態度でしょう。強調したいのは、司法解剖ですらこのていたらくだということです。その隣に得体のしれない、ゆるやかな法医解剖なるシステムを作り、そこに血税を投入したらどういうことになるでしょう。
 

 法医学会は自分たちにだけ都合のいい法案作りに奔走する前にまず、自らのシステムに監査システムを導入すべきでしょう。そうしないと近い将来、市民社会から信頼を失うような大事件を引き起こしてしまうでしょう。だって、現実にその筋の専門家ではない私が知る限りでも、法医学関係者が遺族に不適切に対応しようとした事案は両手に達しようとしているのですから。
 

続きを読む 12345678910111213