海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2012.03.23 2012:03:23:18:30:09

ゾンビ企画、医療事故調査モデル事業は死因究明格差を拡大する。

 2月初旬から中旬にかけ、読売新聞「医療ルネサンス」で医療事故調査委員会モデル事業についての記事が掲載されました。この記事は厚生労働省が、民主党の政権交代でいったん引いて見せたモデル事業を復活させたことをあからさまに示しています。
 

 2012年2月『死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会報告書』の提言を受け、厚生労働省はAi読影に関する研修会の後援実施を決定し、日本医師会、日本放射線学会、日本救命救急学会Ai学会が主催、日本病理学会、日本法医学会、放射線医学総合研究所の後援にて11年2月4日、5日の二日間、Ai研修会が実施されました。この予算は死因究明モデル事業からの拠出というねじれ構造になっていますが、これまでの経緯を考えると皮肉なものです。モデル事業関係者はAiをモデル事業に導入し延命したと安堵するかもしれませんが、それは甘い。Ai研修会の研修内容は医療事故に限定したものではありません。幼児虐待の画像所見なども含め、この研修会はモデル事業よりはるかに広範な社会システムとして対応するものになっています。参加希望者はあっという間に応募人数満数に達しました。Aiに関する関心は高く、日本の医療の良心をよく表しています。
 

 そんな中での、モデル事業推進派の揺り戻しが、読売新聞医療ルネサンスにおけるモデル事業の記事です。執筆者は読売新聞論説委員で、モデル事業を実際に経験した原昌平氏。ちなみに氏はモデル事業関連の病理医が主催する公開講演会でも講師として招かれている。これだけですでにモデル事業に対し、報道者として中立的立場にないという危惧が感じられましたが、記事を読むと案の定、これまでの経緯などを、モデル事業関係者のみの意見しか取材していないことがわかります。
 

 

 記事の内容で、死因究明制度に関係する部分を抜き出してみましょう。
 

 患者が状態が悪化したという緊急呼び出し。患者は5月に癌手術後、抗がん剤と放射線治療の加療中だった。
 

② 病室近い冷蔵庫前で倒れていた患者を、巡回中の看護師が発見したは午前五時。心臓マッサージや蘇生行為も効なく、7時に死亡宣告。
 

③ 遺族から、異状死として警察に届け出るように申し出て、病院側から届け出た。警察の求めに応じ、頭部CT撮影をし、脳出血もなく、事件性も否定された。
 

④ 病院側から病理解剖の申し出があったが、遺族からモデル事業の利用を提案した。
 

⑤ 同日、大阪市監察医事務所で解剖。日本医療安全調査機構から調整看護師が派遣され、事業の仕組みを説明。夕方から4時間半かけて解剖され、結果は午前零時頃説明。
 

⑥ 頭部打撲や窒息などの外因はなし。心臓が肥大しているから不整脈の可能性を示唆。死体検案書は「死因不詳」という形で交付。
 

 解剖から1ヶ月半後、遺族に死因究明に関する要望を尋ねる。
 

 半年後、事前送付された報告書を口頭で説明。死因は不整脈による急性心不全の疑い。
 

 シリーズ記事は2012年2月2日から10日まで連載されました。Ai研修会が開催された頃です。1年以上前の出来事をこのタイミングで掲載するのは意図があるのでしょう。おそらくモデル事業の援護射撃のために書かれたと推測される記事は、皮肉なことにモデル事業が、制度的に未整備かつ医療的レベルが低く、現実にほとんど役立たないものであることを露呈してしまっています。
 

続きを読む 123456789