海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2012.04.16 2012:04:16:18:24:05

 ふたつの「死因究明に関連する法案」が提出された春。あるいは「麻雀トライアスロン・雀豪決定戦」と「第70期将棋名人戦」など。

 要するに死因を公開しなくても咎められないのです。2項に医学的に活用することは妨げないとありますが、運用上、法医学者が恣意的に情報公開を決定できることには変わりがなく、まさに情報隠蔽体質が骨子の法律だと言えるでしょう。そもそも、死因を「知り得た秘密を漏らしてはならない」と規定するのはおかしい。死因は「秘密」であってはならないはずです。遺族には当然、家族が死んだ理由を知る権利があります。
 

 さらにさりげなく「死亡時画像診断」、つまりAiが条文に含まれていることにも注目です。この法案の目指すところは結局、Ai情報を司法領域に収め、情報は司法の都合で隠蔽できますよということです。こんな法律が出来たら、それを楯に「Ai情報は開示できません」と法医学者が言うことは間違いないでしょう。これでは司法冤罪はなくなるどころか、増大してしまいます。
 

 

 でも、いいこともあります。「死亡時画像診断」という用語が導入されていることです。これはAiの定義そのものですから、警察庁はAiを導入したわけです。これで、Aiの社会導入は終了した、といえます。あとは正しく合理的に導入し、市民のために本当に役立つようにすること。これには知恵がいります。興味深いのは、法医学会が主導してきた法案では死後画像という言葉を頑なに用い、なぜかCT主体でMRIを無視してきたのに、ここではCTを無視してMRIのことしか書いていないことです。ひょっとして法案の原案を作った人は、画像診断の基本を理解していないのかもしれません。なのにこうして、警察や法医学会が忌み嫌っているAiという用語が入っている点を見ると、民主党におけるAiの理解者の足立議員が尽力されたのかもしれません。
 

 だとしても中途半端でおかしな法案です。上記条文は、主語述語で単純化すると次のようになります。「警察署長は、『取扱死体』について、死亡時画像診断を実施することができる」となります。
 

 実はこの条文、法律違反です。診断行為が医師にしかゆるされないのは社会的常識です。ですので死亡時画像診断は医師にしかできません。でもこの条文は「警察署長が死亡時画像診断をできる」と言っている。条文を作った議員の「とほほ」加減は、医療従事者としては筆舌につくし難いものです。中心人物の細川律夫議員は、確か厚生労働大臣を歴任したはずなのですが。
 

 こんな基本的な部分がおざなりな条文は拙速のひとことにつきるでしょう。この法案を審議なく通したら、その時は関係者は大恥を掻くことになります。
 

 きちんと国会審議をし、医療関係者にも参考人聴取して作るべき法案でしょう。
 

 

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