海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.04.03 2014:04:03:16:49:51

自由を滅ぼすのは常に、非寛容と独善である。

 書店員さんらしき人のツイートで、年に一度のお祭りなんだから目くじらを立てなくてもいいではないか、という意見がありました。

 でも一年中やっていたら、それはもはやお祭りではありません。昨年の作品は、そんなパチンコのフィーバー状態だったでしょう? 節度がなさすぎですね。

 お祭りというのなら、浮かれたお祭りは期間限定、たとえば一ヶ月できっぱりやめてほしい。その間にも、作家がこころを込めて執筆し、版元さんが満を持して刊行した新刊が山のように出版されているんですから。


 実際、三月半ば現在、本屋大賞加盟店では、本屋大賞候補十作が平積み展開されています。でも考えてみて下さい。これらの本は一回平積みされ、マーケットの流れで店頭から消えた商品です。しかもこの三月、四月にも満を持して刊行された新刊がたくさんある。本屋大賞という企画は、そうした本のチャンスを確実に奪っているのです。

 しかも書店にとってもあまりいいことはない。今、候補作を十作並べても売り上げにはつながりません。本屋大賞に興味を持つような読者は本当の読書好きというよりはむしろ、流行りの本を読みたいという同調圧力が強い読者だからです。すると一月待てば本屋大賞が決まるからそれを読めばいいやとなるので、ノミネート作が売れるはずがないのです。

 その間に割を食った新刊は、店頭に並ぶこともなく消えていくのです。


 現状では本屋大賞は、文芸界全体への目配りを欠いた、残念な企画になってしまっています。

 その象徴的な出来事が、昨年大賞を受賞した百田尚樹さんが受賞式で「本屋大賞は直木賞よりも素晴らしい賞だ」と発言し、それが報道された時、そのことを本屋大賞の主催者が黙過したことです。

 ネットに掲載された挨拶の全文も読みましたが、百田さん本人がそうおっしゃるのは問題ありません。それは作家が自分の名前の下に、責任を引き受けてした発言であり、そういうことを言うかどうかは、個人の問題ですから。

 でも本屋大賞以外の本も大切に思っていると本屋大賞関係者が豪語するなら、主催者サイドから「そう言ってもらえるのは光栄ですが、直木賞も文学を支えてきた素晴らしい賞ですから、ちと言い過ぎです」くらいの正式コメントを出して、発言をやんわりたしなめるくらいの良識と度量は示せたはずです。

 直木賞受賞作だって、本屋さんを支える重要な柱のはずなのですから。

 そう考えると本屋大賞は、直木賞という文壇の権威に反発して創設されたにも関わらず、今や直木賞に取って代わる別の権威に成り上がった、もしくは成り下がった、と見なさざるを得ません。

 いみじくも十回という節目の、昨年の本屋大賞授賞式は本屋大賞の頂点であると同時に没落の始まりであり、本屋大賞の増上漫を世に示してしまったエポックメイキングな回だったわけです。


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