海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.04.03 2014:04:03:16:49:51

自由を滅ぼすのは常に、非寛容と独善である。

 私は講演会で地方にいくと、必ず周辺の本屋さんを回ります。するとどの地方都市でも状況は大同小異で、駅前、駅ナカ、駅近のいずれかに巨大チェーン店が出店しています。ここの展開は全国統一で東京と比べるとちょっと品数が少ないくらいで、ほとんど変わり映えがしません。

 一方、昔からあるような地域密着の小さな書店は薄暗く、一番新しい本が半年前に刊行された売れ筋の本で、それ以外は棚差しで品数はきわめて少なく、文庫はかろうじて新刊も散見されるけれど、店舗はDVDや文房具が書籍よりも広い面積を占めている、という感じです。

 だから本屋が減少しているのは、巨大書店による寡占化が進んでいるからで、そうした事態は本屋に限った話ではありません。でも、本屋大賞はそうした寡占化に拍車を掛けるような企画であると言わねばなりません。

 悲しいけれどそうした寡占化は、人口減少社会においてはやむをえない流れでもあるのです。でもそうした画一化、寡占化は文化の豊かさとは正反対の方向性を志向しています。


 そうした地方の現状まで踏まえると、「書店員さんたちがよってたかって、すでに売れているめぼしい本の中から一冊だけを選んで、更に販促を掛けるために入念に下準備をして大勢の書店員が人気投票をして、一同に集まって販売売り上げナンバーワンを目指すぞ、と気炎を上げるため決起集会をして、その様子をメディアに流す」という本屋大賞の現状を見ていると、悲しい気分になります。

 文化の根幹は多様性を担保することにあり、本屋大賞の志向するベクトルは、文化というよりは商業主義をベースに置いた、真逆の方向に思えます。


 新刊の発行点数は年間七万九千点弱、つまり八万点弱もあるのに、その中からたった十冊だけノミネートし、さらに書店を挙げて一冊だけ集中販売しようというのは、多様性の否定になりかねません。

 そういえば、書店員さんとおぼしき方のツイートに、「その十冊にたどりつくためにどれほどの本を読んでいると思っているのか」というのもありました。

 では逆にお聞きしたい。本屋大賞に投票した書店員さんたちは、年間八万点刊行されている書籍のうち、どれほどの数を読んで候補作を選んだのでしょうか?

 まさか百冊、二百冊程度の読了であんなタンカを切ったわけじゃないでしょうね。学生時代の私ですら、年間二百冊弱の本は読んでいたけれど、たくさん読んでいる、なんて思ったことは一度もありませんでした。何しろそれが、世の中に存在する本の、ほんのひとかけらにもならないことはわかっていましたから。


 ついでにもうひとつ質問。そんなにたくさん本を読んでいるのに、ノミネート作があそこまで版元と作者が偏在してしまうのはなぜでしょうか。年間数千冊の本を読んでも「本を読むなら文芸御三家の書籍」で「やっぱり本屋大賞・神セブンが最高」だなんて、書店員さんに改めて言われなくても読者はわかっているのでは? 

<註:本屋大賞神セブン=前回ブログで私が命名した、本屋大賞ノミネートが四回を超え、しかも本屋大賞獲得率も異様に高い作家群:(8回)☆伊坂幸太郎  (4回)☆小川洋子 ☆三浦しをん ☆百田尚樹 有川浩 万城目学 森見登美彦(敬称略、☆は大賞)>


 今年の候補作はすべて未読でしたが、同時に候補作はすべてどこかで書評なり書籍紹介番組などで見たことがある作品ばかりでした。驚いたことに十作すべてが、です。これでは書籍販売のプロ、本の目利きを自称する本屋さんのセレクトとしては、あまりに安直すりるのではないでしょうか。別に本屋さんにプッシュしてもらわなくても、アンテナの高い読者なら、あの程度の候補作の評判は知っていると思います。

 現に私が、読まずに順位を予想できたくらいですから。


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