海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.04.03 2014:04:03:16:49:51

自由を滅ぼすのは常に、非寛容と独善である。

 そう考えると本屋大賞も、AKB48のやり方と似ている気がします。

 本屋にいくと、興味もないし反感すらあるのに眼に入ってしまう、あの押しつけがましさ、無神経な善意あふれる鈍感さが嫌いなのです。そうした光景が私には「本屋さんが一番売りたい本」というキャッチ・イコール、「これは俺たち書店員が一番売ってやると決めた本だぞ」みたいな大声に聞こえてしまうのです。


 予言しておきますが、今年の大賞は何が取っても、昨年ほどのフィーバーにはならないでしょう。理由はいろいろありますが、もっとも大きな理由は、昨年の大賞関連の騒ぎにげんなりしている良識派の読書人たちの、本屋大賞作品への潜在的な反感が巷に蔓延しているように感じるからです。


 本屋大賞は、最初は一部書店員の手作りの小さな会だったそうです。ところが、みんなが小さな善意を持ち寄って、巨大化したら傲慢になりつつある。非難されると、たちまち一人一人のパーツに返って、弱者の被害者モードで相手の言論を、議論もせずに封殺しようとする。こうした態度は、市民社会の一員が嫌悪してやまない、全体主義への第一歩だったりするのです。


 こんな風に書き終えて、本屋大賞関連の検索を掛けてみてまたびっくり。なんと今年は、本屋大賞文庫フェアをやるのだとか。あーあ、厄年だなあ。

 しかも、第11回なのに10周年なんて、むりやりな命名で。

 こうなると本屋大賞は通年行事になってしまい、「書店員のお祭り」などと言えなくなってしまいます。


 逆説的な物言いになりますが、本屋大賞が書店員のお祭りだというのであれば、むしろ本屋大賞を受賞した作品を売り上げナンバーワンにするのは、書店の恥なのではないでしょうか。自分たちが一番売りたい本を売り上げ一番にするというのは、自分たちの力の誇示にしかみえず、結構えげつない行為だと思います。

 でも私が知っている書店員さんには、そんなえげつないことをよしとする、下品な人は一人もいないのです。これって一体どういうことなんでしょう。

 答えは簡単、人は大勢集まると、相転換してしまう生き物なのです。


 最後に私の作品の登場人物から、本屋大賞さんへ贈る一行。

「なにごとも勝ちすぎるのはよくない。ほどほどが一番だぞ。」

        (by曾根崎伸一郎 From『医学のたまご』)



                      2014年3月19日 海堂尊

 追記1。こんなことを書いている最中にうれしいニュースが。

 厚生労働省が旗振りをして、不慮の事故や原因がはっきりしない病気で亡くなった子どもを対象に、Aiを活用して死因究明を実施する事業を始めることになったというのです。

 日本社会をよりよくするための第一歩として記憶されるべき、素晴らしいニュースです。 特に、毎日新聞さんの記事は、新法解剖の問題点とも絡めた記事など、現状の解析をかなりきちんとしているようです。

 これは日本医師会、ならびにAi学会のみなさんの絶え間ない努力、そしてそうしたことを理解し、情報発進してくださっている、多くの市民の方の後押しのおかげです。

 ただし注意しなければならないのは、これまで厚生労働省は、Aiを宣伝広告のように使いながら、中身をよく読むと、比重はこれまでの解剖に置いたまま、というようなことをしてきました。それは確信犯的な詐欺行為ですが、今回の発表は、羊頭狗肉でないことをこころから祈ります。それは市民社会のためなのですから。

 と思ったら、日本テレビ「スッキリ!!」でAiの特集を組んでくださったようです。ありがたいお話しです。


 追記2。ここまで書き上げて送信しようとしたら、新刊展望という雑誌が届き、『特集・読書がもっと楽しくなる「本屋大賞」に注目!』という記事が。それを読んでいたら、今度はヤフーニュースに「バチスタ作者が本屋大賞に皮肉」という記事が。

 やれやれ。

 新刊展望の特集を読んで感じたのは、初期の志と今の現状が乖離しているということです。そして書店員さんに現在の状況に対する病識がない、ということも。

 ヤフーニュース総括は、ブログ本文と、ツイッターのまとめサイトから記事にしたようで、独自の観点からの記述は皆無でした。単なるまとめサイトの追随ですね。そんなんで、記事って言えるのでしょうか。びっくり。

 でもやはり、ブログの真意は読み取ってもらえていないようです。私が見出しをつけるとしたら、「バチスタ作家、せめて本屋大賞の無神経なキャッチコピーは改変して、と切実な訴え」としたでしょう。

 やれやれ。

 どれもこれも今巷で問題の、論文コピペ事件やゴースト作家事件を彷彿とさせるものです。自分の頭で考え、自分の手で、自分の血の通った文章や論文を書けよ、と思います。

 ちなみにこの文章はこれで十二校です。二週間以上前に初稿を書き上げ、それから毎日、一日一回推敲しています。そのくらい、真剣に書いている、ということです。

 ですから読者のみなさんはできれば十二回、少なくとも三回はじっくり読んで、それから意見していただきたいものです。脊髄反射みたいな場当たり的な、「うつつ・なう」みたいなツイートばかりしていると、「本の目利きの書店員」が選ぶ本屋大賞で、一番大切な「読解力」を疑われてしまいますよ。

 
 ちなみにこうした文章をさりげなくアップしてくださる、宝島社さんの反骨精神と、公共精神にはしみじみと感心し、感謝しております。

 それにしても、本屋大賞についてちょっと批判したら大騒ぎ。これでは、他の作家は気軽に本屋大賞の問題点には言及できなくなってしまうでしょうね。

 ということは、現場の一方の当事者である作家が、本屋大賞に関しては自由に声を上げにくい空気ができてしまっている、ということではないでしょうか。怖い怖い。

 これって書店が本来持っている、自由闊達な空気とは正反対なのでは。

 そういう空気を作り出したのもまた、他ならぬ書店員さんたちだということを、もう一度、本屋大賞の原点に返って考えてみてほしいですね。


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