海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.04.03 2014:04:03:16:49:51

自由を滅ぼすのは常に、非寛容と独善である。

 以下は、2009年3月に刊行した「ジェネラル・ルージュの伝説」129ページからの引用です。海堂ダイアリーという部分で、2007年、『ジェネラル・ルージュの凱旋』を出版した、作家デビュー二年目のことについて記述した文章です。


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 2007年4月 (海堂尊・2歳)
『ジェネラル・ルージュの凱旋』刊行。またしても発売前重版、さらに発売後も重版がかかった。いつものように書店訪問させていただいたが、行く先々で本屋大賞のポップが立っているのに閉口した。『本屋さんが一番売りたい本』というコピーって、何だか優等生をヒイキしている教師みたいだ、と思った。以後あちこちで、「本屋大賞の主旨はいいけど、あのコピーは変えて欲しいなあ」とぼそりと言っては反感を買っている。海堂尊も本屋さんには貢献しているつもりだが、こんなことを公然と口にしているようでは本屋大賞への道のりは遠い。それでもあえてこうして言うのは、あのコピーは作家の心情に対する配慮を著しく欠いていると思うからだ。『本屋さんが一番売りたい本』という看板を立てるならいっそ、その時期だけ本屋大賞の本だけ残して他を全部返品すればいいじゃないか、と思ったりもする。書店は言葉を商う仕事だから、少しは言葉に神経を使って欲しいと思う。
 誤解がないように繰り返すが、私は書店が大好きだし、本屋大賞の主旨も面白いと思っている。たとえば紀伊国屋書店が企画する『キノベス』とか面白いと思う。自分の本が売れなくても、「ち、紀伊国屋の書店員は本を見る目がないぜ」とうそぶけばいいからだ。
 ちなみにこれまた誤解なきように言えば、「キノベス」では『バチスタ』は17位に選んでもらっている。だからこれは譬えなのである。あたふた。
 ところが「本屋さんが一番売りたい本」となると、選ばれなかった作家には逃げ場がない。選ばれた10冊だけ売りたいのかよ、勝手にすれば、と拗ねたくもなる。だからコピーは絶対に変えて欲しい。正確には、「本が売れない時代に売れる仕掛けを作りたくて、一部書店員で販促本を作り、『本の雑誌』や『ダ・ヴィンチ』や『王様のブランチ』でメディアミックス的に仕掛けて売り上げを伸ばし、従来の権威・直木賞に匹敵する賞を作ろう」というコンセプトの賞だから、途中をはしょりまくったコピーは不正確すぎる。

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 今、改めて久し振りに読み返してみると、言いたいことがきちんと伝わるいい文章だな、なんて自画自賛したくなります(笑)。五年後の今、あえて改稿するとすればメディアミックスの項に『ニュース・ゼロ』を加えることくらいですね。

 ちなみに文庫版では後半部分はカットしていますが、日和ったからではなく、文庫化に際しその後の二年の歳月分を書き加えた分、その部分を削らなければならなくなったという事情ですので、これまた誤解なさらぬように。

 まあ、この文章を公にした時点で、本屋大賞の候補になることはきっぱり諦めていました。また、なりたいとも思いませんでしたし。



 2007年に作家として「本屋大賞」と初遭遇した時の印象から「本屋大賞」を欲しいと思ったことは一度もありませんでした。作家になりたての私がイヤな気分になるのだから、他の作家からそんな無意味な反感を買ってまでほしいと思わなかったからです。そして書店を訪問させていただきながら、現場の書店員さんにそのことを訴え続けました。
 でも、まったく聞き入れてもらえませんでした。

 続いてこの海堂ニュースのアーカイブスからの引用です。本文の方をチェックしてもらってもいいですが、面倒くさがる人もいるでしょうから、以下に当該部分を再録します。
 2010年5月21日付の海堂ニュースです。


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 本屋大賞は沖方丁さんの「天地明察」でした。てっきり村上春樹さんの「1Q84」だろうと思っていたのでびっくりしました。いや、沖方さんの作品の程度が低い、ということではなく、去年の本屋さんを見ていると「1Q84」が一番売りたい本だろうなと思えたので、エントリー10冊で最下位だったのには妙な感じがしました。こういう違和感を感じてしまうのも「書店員が一番売りたい本」というコピーが問題なんだと思うのです。
 一生懸命書いたんだから、私の本だって建前でいいから「一番売りたい」と本屋さんには思ってもらいたい(笑)。それは多くの作家が感じていることだと思います。
 実はコピーを変えればこうした問題は簡単に解決します。「書店員が一番好きな本」にすればいい。だって内実は同じなんだもの。これなら私の本が選ばれなくても、「ああ、私の本は書店員さんには好かれていないんだなあ」と納得はできます。悲しいけど(笑)。
 でも「一番売りたい本」というコピーはどうしても納得ができないのです。
 文学賞も、構造は似ています。結局、審査員が「一番好きな本」を選んでいるわけです。つまり主観的人気投票なので、私は候補になれるだけで満足なのです。

 今、文学賞には地殻変動が起こっています。吉川英治新人賞の授賞式で、直木賞作家の伊集院静さんが、「本屋大賞を狙いたい」とスピーチしたのだとか。ちなみに吉川英治新人賞の受賞者は沖方丁さんで、本屋大賞とダブル受賞。しかも吉川英治新人賞よりも、本屋大賞を取った方が社会的インパクトが大きい。これは、文壇の審査員の人気投票と一般書店員の人気投票のどちらが信頼されているか、ということの社会からの回答に思えます。
 文学界も、変革が必要とされる時代になったのだと思います。

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 なんだ、四年前と言ってることがちっとも変わってないじゃないか(笑)。しかも、かなりの節度をもって、やんわりと紳士的な"お願い"の仕方をしています。

 これは、私がキャッチコピーは変えて欲しい、と言い続けたことの動かぬ証拠です。
 やっててよかった、海堂ニュース(笑)。


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