海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.04.03 2014:04:03:16:49:51

自由を滅ぼすのは常に、非寛容と独善である。

 嫌いなものの存在を許容するというのは、私の基本的スタンスです。それは私が人格者だからというわけではなく、私のように主義主張が強い人間は、自分を許容してもらうために必須のスタンスだから、というだけのこと。 

 そして、そうした姿勢こそが自由の要諦なのだと思っています。

 だから、本屋大賞のコピーを変えてもらいたい、という要望が通らなくても、諦めて本屋大賞は気にしないようにしよう、という姿勢に変えました。


 そんな私が本当にうんざりさせられたのが昨年の本屋大賞です。都内の名だたるナショナルチェーン書店では、どこもかしこも延々と「海賊」を、「本屋大賞受賞作」というキャッチコピーつきで店頭展開し続けました。「本屋さんが一番売りたい本」というデリカシーのないコピーを目にするのも、せいぜい一ヵ月なら我慢できますが、驚いたことに年が明け、ほぼ一年近く過ぎても平台面陳であのコピー付きだったわけです。

 更に驚いたことに、今回の本屋大賞ノミネート作の隣に、昨年の本屋大賞作品を並べて面陳する書店まで現れる始末です。これには本当にうんざりさせられました。

 我慢の限界でした。それで『読まずに当てよう、本屋大賞』というブログを書いたのです。


 私が作家になった時、私の夢は半分叶い、残り半分は叶いませんでした。

 私の夢は作家になることではありませんでした。実は、「いつか一冊の物語を書き、その物語が本になり、その本が、とある本屋の書棚に一冊置かれている」という、ささやかなものでした。そしてデビューして八年間で三十冊弱の本を上梓し、あちこちの本屋さんに置かれています。

 でも、私が本当に置いてほしくて、そしてその様子を目にしてみたかった本屋さんは、今はもうありません。子どもの頃、立ち読みの常連だった私に、お茶菓子を出して温かく見守ってくれた「二葉書店」は、二十年前に店を畳んでしまいました。

 だから、私の夢は永遠に叶わないのです。


 私が書店訪問も積極的にさせていただいたのは、その原点に、二葉書店のおばさんへの恩返しという気持ちがあったからです。つまり、かつて、とある書店さんから受けた恩を、書店さんに返したかったのです。

 でも、いくら情理を尽くして訴えても本屋大賞のコピーひとつ変えてくれない書店員さん集団が書店代表のように振る舞っている今、私が恩返ししたいと思う、書店の片隅で、お金がなくて立ち読みばかりしていた小学生を温かく見守り、多様な本を読ませてくれることで育ててくれた本屋さんは、滅びてしまったように思えてならないのです。


 私が書店と書店員さんに敬意を表していることは、書店訪問の際に伝え続けてきたつもりです。そんな気持ちになったのも、当時の宝島社の営業さんが、最初に書店訪問を企画してくれた時に書店の内実を切々と説明してくれたおかげです。サインするときに「狭くて散らかっているバックヤードですみません」と謝っていた書店員さんもいましたが、そんなバックヤードほど、私をわくわくさせてくれた場所はありませんでした。

 だから、あの当時の宝島社の営業さんの下でデビューできたことは本当に幸せでした。


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