海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2012.07.17 2012:07:17:21:40:53

死因究明関連法案に付帯決議がついた理由、そしてケルベロスの夏。

 そんな中、7月1日に日本医師会を筆頭に関連七団体が主催する、第二回Ai学術シンポジウムが開催されました。「小児虐待とAi」というタイトルで活発な議論が行われました。でもその前に行われたAiセンター連絡会議の中で、大阪大の法医学中心のAiの話が大変興味深かったです。
 大阪大学法医学教室には日本でただひとり、画像診断にきちんと対応できる法医学者である飯野守男先生がいらっしゃいます。ですからここの診断は法医学者が実施しているとはいえ、診断の質は担保されているといえましょう。
 

 ところが司法解剖前に大阪大学医学部法医学教室で実施されるAiに対し、警察は費用を払っていないといいます。「解剖の方がわかり、解剖に対する費用は支払っているので、Aiに対する費用は支払わない」というロジックだそうです。大阪では同時にいくつかの臨床病院と契約し、警察がAiを依頼、撮影してもらい、そこには費用を払っているそうです。ただしこれらの契約病院がどこかは、公表されていません。するとそこでのAi診断がきちんとされているかどうか保障がなく、情報公開もされなくなるという、法医の死因究明案件が抱える問題がそっくりそのまま保存されてしまうことになります。
 

 どうして警察は死因公表を隠蔽したがるのでしょうか。「そんなつもりはない」と言うかもしれませんが、それなら死因について臨床医から遺族に伝達する仕組みに同意すればいいと思うのですが。さらに言えばAi情報は医療現場から公開するという原則を新たに打ち立てればいい。
 

 法医学者が仕切ると、刑事訴訟法47条を楯に捜査情報非開示という錦の御旗を掲げ、死因情報に関しては従来通り、せっせと情報隠蔽に走ってしまう。死因情報を市民から遠ざけ、死因不明社会を形成しているかなりの部分を担っている原因は、法医学者の体質自体にある、ということがいえると思います。
 

 ここを根本的に変えなければ、死因不明社会は解消しません。そしてそれは、今の法医学者には不可能なことなのです。
 

 

 ところで、二年前に医師会が提言として出した、「小児死亡例全例のAi実施」は、現場の小児科医の強い願いになっています。セレクトした症例だけにAiを適用すると、「あなたに虐待の疑いをかけています」というメッセージになりかねない、だから国として小児死亡例は全例Ai実施が義務と決めてもらった方が現場の小児科医は助かり、両親に対する精神的負担も軽減するので、対応をお願いしたいというのが、シンポジウムで発表された関西医大の金子一成教授の言葉であり、そうした言葉に参加された医師のみなさんがうなずいていたのが印象的でした。
 

 

 この会には厚生労働省医政局総務課医療安全推進室の宮本哲也室長も発表者として参加されていました。前回のシンポジウムも最初から最後まで聞いていかれた室長ですが、今回も討議に参加され、発言もされました。
 

 厚生労働省も変わったものです。組織というものは人で成り立っています。だからひとりが変われば、組織も変わる。ひょっとしたら私が厚生労働省攻撃をする必要がなくなり、筆を折らざるをえなくなる日も遠いことではないのかもしれません。
 

 ま、楽観すぎるとも思いますし、かなりリップサービスも含んでおりますが。少なくとも、厚生労働省は法医学会よりはかなりマシ、ということだけは断言できるでしょう。
 

 

 いずれにしても来年度もAi研修会の費用拠出を確約されておりましたので、Aiを日本の死因究明制度のベースにしていく方向性に間違いありません。ただし相変わらずAiの実施料に対する費用拠出の確言は得られませんでした。
 

 しかし早く決断していただかないと、現場で身を削り、自費でAiを実施し、その情報を誠実に市民に還元している優良な医療施設の体力が削られてしまいます。
 

 消費税増税するのなら、せめて子どもの虐待を発見するため、あるいは抑止するために、年間たった二億五千万円ぽっちの拠出くらい、簡単に決められるのではないでしょうか。税だけ上げて、いいことに使わないというのでは、市民の支持は得られないでしょう。
 

 市民社会のため、一刻も早いAiに対する費用拠出が確定されることを切に願っています。
 

 

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