そもそも、なぜ細分化されている解剖をさらに細分化させるのでしょうか。
提言冒頭には「海外六カ国の死因究明制度について調査を実施し」とあります。そして公表された調査結果資料には「日本におけるように司法解剖と行政解剖の区別をしている国はなく、英国では半裁自体に対する特別解剖制度があるが、他の4ヵ国では解剖は一種類しかない」とあります。
つまり解剖を細分化している日本の制度は世界的に見てもおかしいわけです。
そこへさらに解剖を細分化する新しい、小さな解剖である「法医解剖」の導入を提言するとは、この有識者たち、そして提言に耳を傾けている警察庁の関係者たちは、何のために海外視察しにいったのでしょうか。
このあたりは、病理学会を中心にしてシステムを作ろうとしていたモデル事業の考え方と瓜二つなので、顕微鏡的視野しか持ち合わせていない解剖医の発想のクセみたいなものなのかもしれません。
法医学者のみなさんはAiの足を引っ張るのではなく、解剖制度の統一を目指してくださいよ。
今、警察庁を中心にまとめようとしている、新しい「法医解剖」導入をめざす法案づくりをしようとするのであれば、まず、やるべきことがあります。
監察医制度の廃止です。
東京都監察医務院と大阪府監察医務室の廃止を、同時並行で行わなければ、統一された法医関連の解剖制度の整備はできません。
新しい法案を作り、新制度を導入するのであれば、それくらいの覚悟は必要でしょう。
裏を返せばこの提言は実は、監察医制度を全国展開すれば済むだけの話でもあります。
新しい法案など作る必要はまったくありません。
死体解剖保存法で監察医制度を置く地域が限定されていますが、その「限定解除」をするだけで事足りる。
なぜなら東京都監察医務院は、法医学者たちの批判はうけていない。ということは、そうしたシステムを全国展開すればいいだけではないでしょうか。
「法医解剖」という制度提案は、いわば、安全性に問題のある温泉旅館はそのままにして新館を造ることでごまかそうという発想です。