日本の解剖制度は行政都合で分断されていて、強制力を持つ司法解剖、行政解剖(五都市のみ)、強制力のない承諾解剖(五都市以外)、病理解剖とわかれています。
どうやらその承諾解剖を法医解剖と、看板のすげかえをして費用負担させようという目論見らしい。一部法医学者は、本当に自分たちの権益しか考えていないのだなあ、と哀しくなるような提言です。
まず「法医学研究所」なる名称がひどい。法医学会は、以前は確か「死因究明医療センター」の設置を、と主張していましたが、ころころ名称を変えるあたり、信念のなさを感じます。終始一貫しているAiセンターとは大違いです。
法医学研究所という名称からは「法医学の研究が主体になる」ということがあからさまにわかります。これが霞が関に潜入している、一部法医学者の意識です。
彼らは、社会の安寧のための「司法解剖の実施」でなく、何だかよくわからない「法医学の研究所」を全国展開しようとしている。提言では当面は「大学の法医学教室を国が指定し」とあります。つまりこの提言は、大学法医学教室に税金を入れろという、法医学教室の利益誘導が主目的なのです。
仮に提言通りに税金が投入されて、解剖率は改善するでしょうか。
それは不可能です。法医専門医になるには、医師になったあと五年間の専門研修と、高度な専門試験に受かる必要がある。しかも法医学者になろうという志望者はきわめて少ない。
ということは、今、税金を投入したところで、二年後はまったく状態が改善されず「これでもまだ費用が足りないんです」という、相も変わらない法医学者の泣き言を聞かされるだけのことになるでしょう。
それで利益を得るのは、現在の法医学教室の教授が数十名。
非効率的な税金投入とAiに対する偏見散布により被害を受けるのは、法医学教室にお世話になることがない、日本の死者の99パーセントです。
創設をめざしている「法医学研究所」はすなわち、現在の大学法医学教室の看板の掛け替えにすぎません。今の死因究明問題が生じているのは、法医学関係の人材不足もありますが、システム自体が制度疲労を起こしているせいです。
その抜本的改革を検討せず、自ら血を流す覚悟もない仕組みに、こうしたあぶく銭を投入できるほど、現在の国情は豊かではありません。
この有識者会議に参加した法医学者たちには、そうした改革を実施することは不可能でしょう。
Aiという新しい、優秀な検査に対して「それでも解剖しなくてはならない」と結論づけるしかないという対応から見ても、その結果は見えています。