海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2013.02.19 2013:02:19:16:44:00

モデル事業が取材を受けないわけ、あるいは司法解剖が増えないのに問題にされないことなど。

 その傍証として2月9日、日経新聞に掲載された記事があります。それによると「昨年の検死官臨場率は49パーセントと13パーセント向上したものの、医師が実施した解剖率は11.1パーセントと0.1パーセント微増したにすぎない」という記事が出ました。解剖率より検死官臨場率を重視しているわけです。

 

 結局、一連の動きでは解剖が重要と言いながら実の部分は検死官の拡充に終わりました。淡い期待をした法医学会上層部の方々はご愁傷さまです。でも社会の実情や流れ、市民の要望を掴みきれず自分たちの権益だけ守るため奔走した法医学会上層部の戦略ミスですから、自業自得でしょう。

 

 結果、警察関連法案は、法医学会上層部のみなさんの思惑通り成立しました。ここからは法医学者の近未来予想図です。今後は声の大きい、法医学会上層部の一部教室にはそこそこ予算がつくでしょう。けれどもその他弱小の多くの法医学教室には解剖が殺到し、それに対する予算は充分つかない状態になります。いや、その前に、そもそも司法解剖自体がそんなに増えないかもしれません。そして法律はできたのに実際の費用がつかないという愚痴を垂れ流しながら、末端の地方組織から崩壊していくでしょう。私が提案したタイミングで舵を切り、医療現場に土台を据えたAiセンターを主体にした死因究明制度を導入し、医療全体で支えるという構図にしておけば生き残る道もあったのですけど、残念です。

 

 今後、地方の法医学教室が惨状になるようなことになったら、その原因は法医学会上層部の不見識にある。そのことは法医学者のみなさんも理解してくださいね。

 

 

 木ノ元弁護士の発表は事実を連ねているだけなのに、すさまじい印象を与えます。医療事故裁判で、法医学者がとんでもない対応をしたため、医療が壊されそうになった実例三例の提示です。

 

 一例はブログでも取り上げましたが、頭部解剖をしなかったのに窒息死と鑑定し、別の法医学者がその鑑定書を鑑定し、司法解剖に値しないとした症例です。そうしたとんでもない鑑定をした法医学者は現在某大学の法医学教室の教授で、また最近、滅茶苦茶な鑑定で世間を騒がせていたようです。こうした「問題法医学者」を排除できないなら、法医学会が暗黙のうちに容認していることになり、法医学会の信頼は失われるでしょう。って、もう失われているのかもしれませんが。

 

 二例目、三例目も衝撃でした。二例目は人工呼吸器の受け口が事故で脱落し、その後患者が窒息死した症例ですが、なんと司法解剖をした法医学者が、解剖直後に遺族に直接、医療事故だから訴えた方がいいと勧め、医療事故に詳しい弁護士をその場で紹介したのだそうです。つまり法医学者が医療事故裁判を煽ったというとんでもない事案で、それが旧国立大の法医学の教授というのですから、東海地方のお医者さんはお気の毒です。

 

 驚いたのは、その法医学者はふだんから鑑定書を書かないそうで、法廷にもメモ書きしか出てこないのだそうです。人工呼吸器のカニュレが取れてもすぐに窒息はしないから直接の死因かどうかわからないのは医療の常識ですが、その法医学者は法廷で「患者は良性の甲状腺腺腫があったため、カニュレが脱落した際に気管が潰れ窒息した」と証言し失笑を買ったそうです。医療従事者なら誰でも知っている通り、良性腫瘍で気管が潰れるような事態はまず起こりません。医療事故裁判は法医学者によって作られる、という実例ですね。結局、この問題は医療機関の責任問題は問われず、遺族に見舞金を出す、という形で和解となりました。そこで遺族から、医療裁判をするように担当の法医学者から弁護士紹介つきで勧められた、という事実が明らかになったそうなのです。

 

 実は法医学者は医療現場をよく知らないのです。だって彼らは結局は警察関係者なのですから。

 

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