海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2013.03.07 2013:03:07:21:54:06

平成24年12月作製「診療行為に関連した死亡の調査分析事業の在り方」、あるいは「内閣府が主催する死因究明等推進計画検討会議事録」を読んでわかったこと。

 延び延びになっていた医師会のAi検討会がようやく始動しました。会議の中身も、地方の現状がフランクに語られて、大変有意義な会議になっています。議論の中身については、ここでは詳しくは書きませんが、前向きな議論が行われていることはお伝えしておきましょう。

 

 でも、今回は検討会の議論の中身もさることながら、参考資料が実に興味深いので、その話をしようと思います。

 

 

 平成24年12月に作製された「診療行為に関連した死亡の調査分析事業の在り方」と題する小冊子で、執筆したのは日本医療安全調査機構企画部会ならびに日本医療安全調査機構理事会とあります。そもそも「ウチは公的機関ではありませんので、取材に応じる義務はありません」と担当記者に言ったという団体が、医療事故というデリケートな問題を扱うこと自体、不透明で信頼性に欠けることは露呈していますが、報告書の中身を見るとさらに首を捻る内容になっています。

 

 

 そもそも冒頭の一文がよくわかりません。

 

「日本医療安全調査機構は2010年4月に設立され、2005年からほぼ5年間継続して行われてきたいわゆるモデル事業を継承した。」とあります。

 

 誰が主体でどのような経緯で設立されたか、この文章ではよくわかりません。モデル事業を継承したということは、誰かの委託を受けたはずですが、一体誰が委託したのでしょう。

 

 答えを言えば、「モデル事業に深く関わった人たちが、モデル事業の失敗を隠しながらこっそり存続させるために設立した」ということです。いわば、自作自演の継承劇なのです。その証拠に、企画部会や理事に名を連ねているのは、ほとんどがモデル事業に関わっていらした方たちです。

 

 せっかくですから報告書に記載されたメンバーの名を転記しておきましょう。この報告書を作製した人たちの肩書きが錚々たることに、市民の方々はさぞや驚かれることでしょう。

 

 

診療行為に関連した死亡の調査分析事業の在り方に関する企画部会 (五十音順・敬称略)

 有賀徹  昭和大学病院院長/日本救急医学会

 嘉山孝正 山形大学医学部脳神経外科教授/日本脳神経外科学会

 木村壮助 国立国際医療研究センター病院超/日本病院団体協議会

 児玉安司 新星総合法律事務所弁護士

 清水信義 岡山労災病院院長/日本外科学会/岡山地域代表

 鈴木利廣 すずかけ法律事務所弁護士

 高杉敬久 日本医師会常任理事

 高本眞一 三井記念病院院長/日本心臓血管外科学会

 寺元民生 帝京大学医学部学部長/日本内科学会

 樋口範雄 東京大学大学院法学政治学研究科教授

 深山正久 東京大学医学部大学院靱帯病理学分野教授/日本病理学会

 松月みどり 日本看護協会常任理事

 松本博志 札幌医科大学医学部法医学講座教授/日本法医学会/北海道地域代表

 矢作直樹 東京大学大学院医学系研究科救急医学講座教授/東京地域代表

 山口徹  虎ノ門病院院長

 原義人  青梅市立総合病院院長/中央事務局長

 オブザーバー 厚生労働省

 

 代表理事 高久史麿  日本医学会 会長

   理事 寺元民生  日本内科学会 理事長

      國土典宏  日本外科学会 理事長

      深山正久  日本病理学会 理事長

      平岩幸一  日本法医学会 理事長

      樋口範雄  機構運営委員会 委員長

      高杉敬久  日本医師会 常任理事

      堺 常雄  日本病院会 会長

      嘉山孝正  全国医学部長病院長会議相談役

      大久保清子 日本看護協会 塾会長

      森 昌平   日本薬剤師会 常務理事

      溝渕健一  日本歯科医師会 常務理事

   監事 山口徹   日本内科学会

      里見進   日本外科学会

 

 

 冒頭の記述は次のように続きます。「そもそもモデル事業と呼ばれるからには、その試みが全国的な医療安全のための仕組みを構築する『モデル』でなければならない。そこで日本医療安全調査機構は2012年度には、日本内科学会、日本外科学会等の日本医学会基本領域19学会はじめ臨床部会学会ならびに日本医師会、日本看護協会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、病院団体、全国医学部長病院超会議等の約70団体から積極的な参画を得て、医療界が一体となって運営する形の組織となった。」

 

 驚くべきことに「その試みが全国的な医療安全のための仕組みを構築する『モデル』でなければならない」ということを果たすために導入されるのがAiだということが報告書内で明白にされています。これはこれまでのモデル事業の大方針転換です。

 

 さらに「調査は解剖、死後画像撮影を原則とし、今後、必要に応じて解剖が実施できる体制の構築に勤める。」とあります。「今後、必要に応じて解剖が実施できる体制の構築に勤める。」とは、つまりこれまでは解剖ができない現状だったのに、モデル事業を解剖主体に展開しようとしていたことを自ら認めてしまっているわけです。

 

 

 そう考えると次の注釈は噴飯ものです。

 

「調査分析にこれらの手段(筆者註:解剖と死後画像撮影のこと)は必要であり、これらのための基盤整備が何よりも重要であるが、事例によってはそれが不可能な場合もある。また全国でそれが可能かという都現状では必ずしもそうではない。そこで解剖を実施していなくても、中立的専門的調査分析を可能な範囲で引き受ける」とあります。

 

 ごちゃごちゃした文章は大変わかりにくいので、作家である私が一肌脱いで、一般市民のためにわかりやすく書き直しましょう。

 

「診療関連死に関するモデル事業は解剖を中心にやったけど失敗したし、地方ではとても無理だとわかったから、死後画像だけの症例も引き受けることにした」

 

 つまり、モデル事業といいながら、そもそも全国展開できそうにないモデルを作った、ということを吐露しているわけで、これは私がこのブログを通じて、ずっと主張してきたことでもあります。解剖率が2%台なので、全国展開は無理に決まっているのです。

 

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