海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2012.10.31 2012:10:31:14:02:39

九州シリーズで考えたこと。あるいは日本社会はAi導入に向けて舵を切ったという現実。

 つまり死因究明制度はAiに重点を置き始めた何よりの証のメンバーなのです。

 

 そう思うと、東海大学放射線医学教室の今井先生の役割はますます重要になってくると思われます。と同時に、大変危惧もしています。その理由は三つ。ひとつ目。今井先生が所属する東海大はAiセンターを設置できておらず、基本的にAiに対応していないこと。つまりAiに関する造詣に乏しく、実際の現場における運用について知識が少ないのです。ふたつ目。今井先生はモデル事業の委員になっていること。これだけで、どのような主張をするか、想像がつきます。みっつ目。今井先生は深山班に参加していた委員だったこと。しかも東海大は深山先生の最大の協力者で、法医学分野でのMRI症例の検討という非常に重要な部門を任され、国費を使ってモバイルMRIで十数例実施しておきながら、報告書に結果をまったく記載せずに澄ませてしまったという、非常に不誠実な対応をした大学でもあるのです。(「ほんとうの診断学189頁・表3参照)

 

 ここから推測されるのは、今井先生は放射線学会代表でつまりAiの主張の代表者ではあるものの、Aiの意義について正しく理解していない可能性があるということです。するとAiの導入に関し、不適切な意見を述べたりするのではないか、という危惧がある。ここでひと言ご忠告申し上げますが、放射線科医としてAiの診断の高度性や、費用負担に関し、会議できちんと主張しなければ将来、放射線科医はAiに関してタダ働きを余儀なくされる可能性が高い。放射線科医の未来を考えたら、Aiをきちんと評価させ、素晴らしさと有効性を主張し、実績を挙げる必要がある。放射線学会におけるAiの未来は今井先生の肩にかかっているのです。

 

 未来の放射線科医のため、奮闘していただきたいものです。それは同時に、市民社会のためにもなる。ここでモデル事業の顔を立て、Aiに関し不明瞭な主張をすれば、市民社会と未来の放射線科医に対する背信行為になりかねません。それが過大な負担だとお考えなら、対応できる人材を放射線学会から出すべきでしょう。その人材は少なからず存在していることを私は存じ上げておりますので、よろしければ適任者を推薦します。

 

 

 話が少し横道にそれま、というよりむしろそちらが本道だといえるかもしれませんが、話を戻すと、九州シリーズの最後は佐世保での医療マネジメント学会でした。諫早中央病院の君野先生のご招待でしたが、医師、看護師、技師や事務の方々など、医療に関わる幅広い演題を発表する学会で、発表演題は1100題を超え、参加人数四千人という巨大な学会です。その冒頭の特別講演では、びっちりとAiの話をしました。そういうことをしてもいい、久し振りの舞台でした。

 

 もともと医療安全や医療事故問題もメインテーマとする学会ですから、四百人近い聴衆のみなさんは集中して聞いてくださいました。舞台の上からでも、案外、人の意識はわかるものです。

 

 そこで申し上げたのはAiに関するシンプルな原則でした。

 

「Aiは迅速で透明性の高い検査で、情報公開も担保される。このため医療現場と市民の信頼関係を築くには絶好のツールである。Aiを阻害しようとする動きは、市民社会と良質な医療に害悪をなす。その証拠に、捜査サイドの代弁者、法医学者はAiのきちんとした診断システムについて論じないし、情報公開にも明言しない。Aiを解剖に従属させると医療がずたずたにされてしまう。つまり解剖主体の死因究明制度に固執し続けることは市民社会を混乱させ、医療を破壊するおそれがある。問題を解消するには解剖至上主義からAi優先主義へのパラダイムシフトが必須である」

 

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