海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2012.10.31 2012:10:31:14:02:39

九州シリーズで考えたこと。あるいは日本社会はAi導入に向けて舵を切ったという現実。

 ところで最近の興味深い事件といえばiPS細胞関連で山中教授がノーベル賞を受賞したことですが、それよりも疑義のある論文を発表したM氏の話題で騒然です。この話の骨格は拙著『医学のたまご』に似ているな、と思っていたら、そう感じてくれた読者の方もかなりいらしたようで、ツイッターとかでもそういう感想が上がっておりました。ところがメディアはこれをワイドショウ的報道にすることで、責任転嫁かつ焼け太り的な処理に走っているようです。

 

 ですが、この問題は実は根深いものです。もちろん、実態のない研究を大々的に一面で取り上げたメディアの取材力のなさ、チェック能力の欠如は大きい。東大医学部非常勤講師とかハーバード大客員講師の肩書きがあるとメディアはいちころで、中身をほとんどチェックしていないことが露呈してしまったわけです。実際、東京大学特任教授という肩書きだったようですが、東大のチェック機構はどうなっていたのでしょうか。天下の東大ですから、責任なしとは言えないでしょう。

 

 でも、東大が絡むと研究の中身をろくにチェックしないで報道してしまうという悪弊は、今に始まったことではありません。私が批判し続けている厚生労働省の科学研究班・通称深山班の研究など、中身をきちんと吟味したら報道する価値などないどころか、きちんと批判しなければいけない類の研究だということが、研究の中身をちょっと吟味すれば素人にもすぐにわかる程度のものなのに、発表当時、大新聞は大々的に報道し、そのことを批判した書物を出版しても検証しようとさえしません。ちなみに、共同通信は、深山班の結果の報道の時にもやはり、中身をほとんど検討せずに誤報に近い発表をしています。ですので、今回のiPS誤報事件のような事態は、きっといつかどこかで起こるだろうと思っておりました。(拙著『ほんとうの診断学』第二章・深山班研究批判参照)

 

 ブログで批判した時は不用意な言葉尻を捉えられ、矮小化された名誉毀損訴訟などでこちらも一敗地に塗れましたが、研究の中身を徹底的に検証し、批判した書籍を世に出せたということは、実は私の批判は適切だったということの何よりの証拠になるでしょう。

 

 私の批判の本質は、「研究実績のない、門外漢の東大教授が、学問の基本を逸脱した研究を実施し、Aiに対して医学的に間違えた解析を行い、広く社会に散布した」ということだったのです。

 

 これを見逃したら学問の良心が失われてしまいます。その点、深山班の研究は、iPS細胞の虚偽研究と思われる研究に携わったM氏と同等のレベルの研究だったとも言えるでしょう。

 

続きを読む 12345678