海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2012.10.31 2012:10:31:14:02:39

九州シリーズで考えたこと。あるいは日本社会はAi導入に向けて舵を切ったという現実。

 でもあくまで解剖主体なので、こういう問題が出てきてしまうのです。Aiでチェックして問題がなければ異状死扱いしないというのは、医学的に妥当な判断法です。それができないのは、解剖を主体にするからです。遺体を受け入れた段階で、異状死というレッテルを貼らないと、Aiセンターのシステムが稼働しないのです。これが治療中の患者の死亡ならモデル事業扱いできたのでしょうが、質問した方は自宅療養での死亡なので医療関連死にならない。すると外部の遺体を受け入れるには異状死による承諾解剖の枠組みしかありません。だから異状死扱いに固執したのでしょう。

 

 でもAiで異状死かどうか判断し、異状死なら解剖を勧めるという仕組みの方が、医学的、論理的に明らかに優れています。そんな簡単な仕組みにできないのは、佐賀大学医学部がモデル事業に参加してしまったからに他なりません。モデル事業よりも遙かに優れたAiセンターという仕組みを作っておきながら、それより数段劣るモデル事業の仕組みを採用するなんて馬鹿げています。一体、どうなっているんでしょうか。でも日本ではそういうことが往々にして起こります。

 

 グランドデザインを決定する中央が無能だからでしょう。

 

 

 無能と言えばAiを死因究明制度の基本に据えるべき、という先進的な理解をしてくれている日本医師会にも不協和音があります。ずばり医療安全関連の先生が、Aiの利点を理解しきれておらず、厚生労働省に懐柔されモデル事業の枠組みを支持してしまっていることに起因しています。

 

 驚いたことに医療関連死における死因究明制度の構築に関する検討会が、以前とまったく同様のメンバーでひっそり再開されています。民主党が政権交代した時、時の厚生労働省政務官の足立信也議員が、モデル事業は実質的に廃止し、代わりにAiに予算をつける方向で考えている、と言っていました。ところが民主党はその後、政権奪取時の主張と百八十度違う主張をするようになり、気がつくとモデル事業は、以前とまったく同様の大綱案を構築せんと動き出しています。

 

 このことからわかるのは、モデル事業を続行したがっているのは厚生労働省官僚だということです。政権が代わったら死んだふりで様子を見て、じわじわと自分たちの主張が通るまで我慢する。たとえそれが間違ったシステムでも、医療崩壊の芽になるとわかっているものでも、先輩が決めた路線は絶対に変更しない。これが官僚の執念であり、それが日本を衰退に導いている諸悪の根源だということに、そろそろ市民は気づかなければなりません。

 

 でも、日本医師会の一部の理事が日和って提案した医師会案は委員会でぼこぼこにされたという話も伝え聞きました。いつまでも同じ過ちを繰り返しているヒマは、医療現場にはないのです。

 

 

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