海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2018.04.27 2018:04:27:20:37:46

もう何が何やら、ひっちゃかめっちゃかな怒濤の春の嵐

  
 さて、いろいろ書きましたが、久しぶりの近況報告です。

1.上記でも散々述べた通り4月6日、『玉村警部補の巡礼』発売しました。この作品を書くために四国霊場八十八寺を巡礼し遍路開創千二百年記念スタンプを集めて結願、最後は雪の高野山参りもしました。遍路の道も一歩から、この作品を読んで遍路に行くのも一興、遍路の達人が酒を呷りながらその未熟さを罵倒するのもよし。いろいろな楽しみ方ができる一冊です。窃盗あり、殺人あり、過去の事案の再調査ありとバラエティに富んだ、作者にとって久しぶりの本拠地(?)ばりばりの本格ミステリー(だと思う......)。 

 これに伴い既刊の『玉村警部補の災難』『カレイドスコープの箱庭』、そして新しい全面帯を巻いた『新装版 チーム・バチスタの栄光』に重版がかかりました。

 遍路の功徳大なり、南無大師遍昭金剛。


2.三月下旬『スカラムーシュ・ムーン』文庫を刊行しました。表紙は週刊新潮連載時に挿絵を描いて下さった美人酒豪イラストレーター大塚砂織さん。派手な仕立てです。解説は私の中学校の大先輩、東えりかさん。解説だけでも一読の価値ありです。


3.大変長らくお待たせしました『スリジエセンター1991』文庫化です。解説はなんとドラマ「ブラックペアン」で世良役を演じる竹内涼真さん。ドラマの役柄そのもののような初々しく真っ直ぐな文章は一読の価値あり、竹内ファンなら記念購入必須アイテムです。

『ブラックペアン1988』ドラマ化にあたり『ブレイズメス1990』共に重版が掛かり、『スリジエ』を加えた三冊にドラマのキャスト勢揃いの帯がついて大展開中です。


4.ドラマ放映開始日の4月22日(日)の朝日新聞にドラマの主役、二宮和也さんとの対談記事が掲載されました。言葉では負けていないつもりですが写真で並べられると、ビジュアルではやはりどうにもこうにも......。でも、記事の内容はとてもよかったです。


5.というわけで日曜劇場「ブラックペアン」放映開始です。初回は一足早く、丸ビルでのプレミアム試写会で拝見しました。倍率百倍のプラチナ・チケットは原作者特典です。会場は若い女性で一杯でした。開始前控え室で二宮さん、竹内さん、葵さん、小泉さんにお声を掛け、初めてお目に掛かった内野聖陽さんにもご挨拶しました。放送後加藤浩次さんと再会(昔加藤さんの番組に出演したことあり)の挨拶をしました。個人的に悔やまれるのは、加藤綾子さんにご挨拶しそびれたことで、これはいろいろとタイミングが悪かったのでした。

 試写が始まると観客は身じろぎひとつせず70分の上映の最後まで観客席の緊張感は途切れませんでした。既にテレビでご覧になった方も多いでしょうから、同意していただけると思いますが「不朽の名作になりそうな予感」がひしひしとしています。

 試写の舞台挨拶後、二宮さんや竹内さんが振り返った時に黄色い歓声が上がりようやく、ああ、ファンクラブの人たちも大勢いたんだと認識したのですが、試写の最中はそうした人たちもファンの立場を忘れてドラマに没頭していたようでした。

 撮影見学後のインタビューで「二宮さんは一流の外科医です、まあ、リップサービスですが」と申し上げましたが、あれは本音でした。見学したのはワンシーンだけだったんだもん。

 でも一話放映後の今なら「リップサービスですが」という言葉は「トル」です。

 あっという間の70分が終わると、重厚な映画を一本見終わったような気分になりました。世良役の竹内涼真さんが研修医役で瑞々しい体当たりの演技を見せてくれましたし、花房役の葵わかなさんの新人看護師もひたむきで溌剌としていました。高階役の小泉孝太郎さんはエリート医師のそつのなさと脆さと強靱さを併せ持つ難しい役柄を存在感を持って演じておられました。加藤綾子さんの治験コーディネーターには、私もミシュランの三つ星料理店で接待されたい(笑)。加藤浩次さんは本人も言う通り、まだ本格的な登場ではないもののそつなく役柄をこなしていました。そしてラスボス・佐伯教授役の内野聖陽さんの存在感にはひたすら圧倒されるばかりでした。他にも初回は西垣教授役の市川猿之助さん、守屋院長の志垣太郎さん、黒崎助教授役の橋本さとしさん、猫田看護師役の趣里さんなどの演技が印象的でした。

 でも何といっても渡海役・二宮さんは抜群でした。対談でも申し上げましたが、何しろ声がいい。大金を要求しながら、カネに固執していない風情を醸し出している。その上、相手の心を抉るようなエグい言葉をさらりと吐きながらも、どこか爽やかです。また一話を通して見てみると、その手技や佇まいは外科医としても完璧に近い。

 まさに実力派の出演者揃いの中で、主役を張るだけのことはあります。

 出演者のみなさんは当然演技をしているのですが、それが地に合っていて違和感がない。

 これは伊與田プロデューサーの人物鑑定眼によるところ大でしょう。

 と、そつなく全方位的に褒め言葉を並べたのは、それが本音だということがひとつ、もうひとつはこのクールでこのドラマを見逃したら後で悔やむから、オンタイムで見た方がいいですよと、原作者としてではなく視聴者のひとりとしてお伝えしたかったからです。

 ドラマの出来の良さは出演者の舞台挨拶のトークからも垣間見えました。二宮さん、竹内さん、小泉さんの三人が朝七時から深夜二時まで撮影した場面が、ドラマではわずか数分しか使われていなかったことに愕然としたというのです。私が見学した場面も二話目のワンシーンで、そこを二時間近く何度も撮っていましたが、おそらくそのシーンはドラマでは一分もないでしょう。いや、一分くらいはあるかな。でも二分はありません。

 なので二宮さんが本音でぽろりと「この撮影はほんと、つらい」と漏らしていたのが印象的で、その気持ちはとてもよくわかりました。

 その時、役者さんって大変だなあと思いつつも、同時にあることに思い至ったのです。

 外科医は手術の時のほんの数分、数秒のため延々と糸結びの訓練をします。まさにそれと同じ構図なのです。それだけ長時間の撮影し続けるということが、医師という職業の重さの理解とその表現に役立っているのだと気づいたのです。なるほど、こういう風に身体で理解するというやり方もあるのか、と感じ入った次第です。

 私のところには第五回までの台本が来ています。そこまでは初回同様、見応えのあるものになっていることは保証します。後半の五回分は未見なので保証はできませんが、突然失速するようなことはないだろうと思います。ですので五回までは私に騙されたと思って見てください。残りは、こんな風にお勧めした私に感謝しながら見ることになるでしょう(笑)。

 ここでひとつ申し上げておきたいのは、私がこんな風にドラマを激賞しているのは、公開試写後にお土産にもらった「ブラックペアン 東城大ひよこ」がとても美味しかったせいだ、というわけではありませんので、そこはご理解いただきますように。

 追記。ここまで仕上げたのは第一回放送当日で、それから一週間が経ち、巷には私の予想通り、「ブラックペアン」中毒患者がすでに蔓延しています。手遅れにならないうちに特効薬である、「ブラックペアン」のオンタイム視聴を、医師としてお勧めします(笑)。(4月27日)


6.4月5日、千葉大学の入学式の第二部で挨拶しました。落第生の私がこんな大役を仰せつかる日が来るとは夢にも思いませんでした。今年は桜の開花が早く葉桜の中、三千人を前にした挨拶は私の史上二度目の大人数でした。後輩のみなさんは行儀よく、礼儀正しく話を聞いてくれました。でもひとつ恨みごとが。

 私の前にお話しされた徳久学長はチアガールの金のポンポンのアーチの下をくぐって登壇したのに、私にはそういうのがなかったのです......。ああ、無情。

 自分ではいろいろいいことを言ったつもりなのに、そちらはどうも印象が薄かったようで、ツイッターなどで抜かれたのは『ブラックペアン』、見てね、買ってね」というところだけ。言い訳すると私の前に徳久学長が新入生に向け「新入生よ、読書せよ! 特に百年以上持ちこたえた古典を読むべし。究極は三大宗教経典やで!」と熱いメッセージを投げたので、ついつい「いや、読むなら現代文学ぜよ、では誰の作品を読むべきか、千葉大生なら海堂尊ぜよ!」と言い返してしまったわけで。おまけに件の編集Sさんからは即「千葉大の挨拶が多数ツイートされていますが『ブラックペアン』だけでなく『巡礼』の宣伝もお忘れなきよう」というメールが来る始末。でも三千人の聴衆を前に宣伝するなんて、そんな余裕はありませんでした。


7.「週刊文春」に「ポーラースター外伝 フィデル!」連載中です。単行本の扉絵でいつもわがままをお願いしてばかりの3rdeyeさんのイラストは絶好調、歴史的にも一見の価値あり。キューバで入手したお宝の資料などのおかげで、原稿を渡す前に何遍も書き直しを余儀なくされています。つまり、ものすごく密度を高めながら執筆しています。今後もご愛読を。


8.本文でも縷々述べたように6月中旬、文庫『死因不明社会2018』刊行予定です。これは2007年のブルーバックス『死因不明社会』(絶版)に新章「死因不明社会2018」を加筆したもので、新章部分だけでも薄い文庫一冊分くらいあります。正直、面白いです。

 表紙は黒、黒本三部作とお揃いの装丁にしてもらう予定。他作に合わせカタカナ+算用数字で「シインフメイシャカイ2018」にしようかとも思ったけれど、さすがに字面が悪すぎて提案もせずに断念。帯の写真の「Ai守護神・七人の侍」はドラマ・キャストにも負けていない自信あり。惹句は「片っ端から死因究明してやるよ」。これはパクリではありませんし、そもそも採用されるかどうかも未定なので、違っていたらご容赦を。


9.1月末、角川麻雀大会に出場しました。歴戦の作家と女子プロ3名、角川会長の16名4卓で4回戦を争いました。私は決勝卓に進出するも残念ながら4位。でも角川会長から3位賞品の「バルミューダ」のトースターをおさがりで頂戴し、日々美味しいトーストを食させていただいております。ツイているんだか、いないんだか。

 角川会長、ありがとうございました。大会レポートは野性時代3月号に掲載。


10.同じく野性時代4月号、医療小説特集号に短編「絶望の海、希望の星」を執筆しました。ホスピスをめぐる物語。田口先生、久々の登場です。


11.7月公開のミュージカル「エビータ」にメッセージを寄稿しました。壮大なミュージカルで一緒に『ポーラースター ゲバラ覚醒』をお読み戴くとエビータに関する理解が深まるかも。そういえば去年、岡田准一さんがMCを務めるNHK--BS「プロファイリング」のエビータの回に出演したのがご縁だったのかも。日本人が今、見ておくべき物語です。


12.これも昨年ですが、阪本順治監督「エルネスト」の舞台挨拶でゲバラの命日に登壇し、献花させていただきました。プログラムとDVDにも小文を寄稿しています。またデジタル週刊文春でも阪本監督と対談させていただきました。


13.5月9日、J-Wave「TOKYO MORNING RADIO」、別所哲也さんの生放送に出演します。遍路の話になりそうです。


14.5月27日、6月3日の二回、南美希子さんがパーソナリティを務めるニッポン放送「ENTERTAINMENT NEXT!」に出演予定。遍路とドラマについてかなり話します。


15.6月30日、パシフィコ横浜で行われる第80回耳鼻咽喉科臨床学会総会で講演します。講演会後、会場で久々にサイン会を実施します。お近くの方はご来場ください。


16.7月、98期ピースボートに水先案内人として乗船します。私が学生の頃に始まったピースボートは、左翼企画と思われていた時期もありましたが、今は豪華客船で高齢者のリピーターが多いのだとか。引き受けた理由は数年前、ピースボートが国連に原爆被害者をお連れしたことが反響を呼び、核廃止条約の締結のきっかけになり、昨年のICANのノーベル平和賞受賞にもつながったということを聞いたからです。

 週刊文春連載「フィデル!」初回に、安倍内閣が核禁止条約に批准しないことを批判していた私は、喜んでオファーを受けました。私は左翼ではなくリベラリストで非親米の愛国者、そして非体制派です。だからパヨクとか言わないでくださいね。もっともそんなことを言ったら、私の読者から鼻で嗤われると思いますが。

 あ、忘れてた。私は右翼でも左翼でもなく、医翼なのでした。


 ふう。久しぶりに近況報告をしたら、いろいろなことをやっていたのを思い出しました。オンタイムでないので、落ちもずいぶんありそうです。海堂ニュースは貴重な備忘録だったということを痛切に感じています。だからって、続けるつもりはありませんが。

 最後にこんな風に長くなった言い訳をすると、依頼を受けたのは四月初旬で、あら書きはすぐに書き終えたのですが、初稿で項目だけだった部分が次々に現実化し、そこに対する所感を書き加えては削ったりしているうちに70枚強という超大作になってしまったのでした。

 それは『死因不明社会2018』の加筆部分が膨れ上がっていった過程にそっくりで、ということは今このタイミングで海堂ニュースを一夜限りの復活をさせるのは天命だったのでしょう。ちなみにこれは8校です(笑)。

 こうした機会を与えてくださった、私にとって天命の告知者、大天使編集Sさんに深謝いたします。

     2018年4月27日       海堂尊
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