海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2018.04.27 2018:04:27:20:37:46

もう何が何やら、ひっちゃかめっちゃかな怒濤の春の嵐

  
 そんな風に久々に前後左右、四方八方と全方位的に暴れまくった2018年春。緑山スタジオの「ブラックペアン」撮影見学や主役の二宮和也さんとの朝日新聞での紙上対談、ドラマ完成披露試写会に加えて千葉大学の入学式での講演など、何が何やらわけがわからなくなりそうな、ひっちゃかめっちゃかな春の嵐の中、ようやく『玉村警部補の巡礼』の出版にこぎつけ、見本を頂戴した時に編集Sさんから思いがけない申し出が。

「『巡礼』も出ることですし、久々に海堂ニュースを書いてみてはいかがでしょうか」

「え? アレ(=海堂ニュース)ってまだ削除されてなかったんですか?」

「ええ、世の中、何が幸いするかわかりませんね」

 もう私がオファーを受けるのが前提になっているようで少しイラっとはしたものの、結果的にこうしてオファーを受けているわけだし、私に文句を言う筋合いはありません。

 その時のSさんのお言葉を載せます。「『玉村警部補の巡礼』は海堂さんが四年もの歳月をかけ、実際に四国霊場八十八箇所を巡り結願し、数十冊の参考文献も読み込んで弘法大師に深い敬意を払った後に厳粛な気持ちで真摯に執筆された、渾身の一作です。でも著者が『桜宮サーガの超傍流』だなんて書くくらいですから、読者にその真剣さ具合が届いていません。ですのでここは是非、久々の海堂ニュースでそこのところを強調していただければ」

 なるほど、確かにそれはウソではないな、と感心しつつ、でも四年掛かったのは単にトリックが思いつかなかったからだし、結願したのは遍路開創千二百年記念スタンプをコンプリートしたかっただけだし、参考文献を読破した感想は「うわあ、この人ってば、ひょっとしてものすごい詐欺師なのでは」なんていう、とても表に出せないようなものだし、などと内心でSさんの言葉を打ち消しながらも、思い出してみれば苦労した第3話を書き上げた後で直した時「そうか、これがミステリーのお作法か」と開眼し(いまさら?)、以前書いた二作もその観点で書き直し(過去の『「このミス」大賞作家ブック』をお持ちなら、未熟時代の海堂短編と読み比べてみてください)、これなら本格ミステリ大賞を取れるかも、とわくわくしつつ擱筆したのも事実でした。(いや、本格世界はそんなに甘くないから......)。

 ちなみに第4話も『大賞作家ブック』に掲載した時と趣向をがらりと変えてリライトしましたが、雑誌掲載バージョンも気に入っていて、どちらにしようか最後まで悩みました。第4話収録の『大賞作家ブック』はまだ市場に出回っていますので、興味ある方は是非読み比べてみてください。

 というわけで編集Sさんの過大な褒め言葉はともかくとして、振り返ってみると『巡礼』は、日本古来の伝統文化である遍路と最新の医学技術を駆使した医学ミステリーの融合で、警察小説の様相も呈している「遍路医学警察ミステリー」という、新ジャンルを切り拓いた力作だ、と再認識した次第です。(ああ、フックが多すぎて何が何やら......)

 実際、私の執筆史上でも苦労度ナンバーワンという呼び声が高いほどの労作で、四つの短編は窃盗あり、昔のアリバイ崩しあり、殺人あり、大規模捜査あり、とバラエティに富んだもので我ながら上出来の仕上がり、自信を持って世に送り出せる傑作です。

 加えてこの本は遍路初心者向けのガイドブックにもなっている(......はず)。実際にこの本を読んで遍路に行きたくなったという読者が続出しているのは喜ばしい限りです。遍路は現在、世界遺産登録を目指している、日本が誇る文化遺産です。でも遍路という言葉を知らない日本人はいないけれど、中身をよく知っている人は案外少ない。それは最初の第一歩のハードルが高いせいです。ここで加納・玉村コンビの「叱り叱られのボヤき道中」を一緒に旅すれば遍路に行きたくなること必定で、更に実際に遍路に行けば、『巡礼』の名作具合が一層よくわかるという、遍路・海堂のウィンウィンの関係を築き上げることもできる。なんと壮大な構想を孕んだ作品でしょう。遍路への第一歩のため是非『玉村警部補の巡礼』をご一読を。

 ふう、これでようやく冒頭の「海堂ニュース」再開の言い訳の伏線が回収できました。
 さてここからは、久々の海堂ニュース本文のスタートです。(え? まだやるの?)

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