海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2018.06.14 2018:06:14:13:42:39

訂正と追記、ついでに諸々の経過報告など

 まず最初に訂正を。近況報告14「6月30日、パシフィコ横浜での第80回耳鼻咽喉科臨床学会総会での講演会」は学会員限定です。サイン会は一般の方も来場可能なようです。14時から。詳しくは学会受付でお尋ねください。


 近況追加16.読売新聞5月21日朝刊記事「スクールデイズ」に掲載されました。
        高校入学直後の剣道着姿の写真も掲載してもらっています。


 5月31日、大阪地検は公文書改竄に関する告発に対し、佐川前国税庁長官を不起訴処分としました。この案件は当初から異例ずくしでした。検察が市民団体の告発状受理を数ヶ月も引き延ばすことも異例なら不起訴処分について会見を開いたことも異例、しかもその際の質疑で「回答を差し控える」という回答を連発するのも異例なのです。「捜査の都合上回答を差し控える」という文言はよく耳にしますが、捜査が終結したなら回答を差し控える根拠は何もないと思うのですが。検察が不起訴処分の決定理由を法的に説明できないなど論外で、市民に対する説明責任を果たさないという点で安倍政権と同じ体質です。結果、告発した市民団体が三団体揃って不起訴不当の訴えを起こすという、異様な事態になっています。

 この事案は民主主義の根幹を揺るがす大問題なのですが、官僚や検察の煩雑な言い訳に幻惑され、メディアを含め多くの人は本質を見失っています。

 まず、決裁の下りた公文書を改竄するのは民主主義国家ではあり得ない背信行為で、文民が犯しうる最大級の大罪です。言わば「民主主義国家に対する殺人罪」に相当するので、当事者は少なくとも懲戒免職ものです。それでも甘いでしょうね。

 検察は「事案が終了したので細則に従い文書を廃棄した」という佐川氏の主張を鵜呑みにして不起訴にしましたが、この事案は国による土地買い戻しが未了なので契約は完了しておらず、会計検査院法違反は明瞭なのだそうです。つまり法律の専門家団体である検察は、素人でもわかるレベルの法適用に目をつむり、無理やり不起訴にしたのです。これでは不起訴理由をきちんと説明できない理由がよくわかります。大阪地検の市民社会における存在意義は、完全に崩壊しています。ただし週刊新潮の記事によれば、これは大阪地検の判断ではなく最高検の判断らしいので、批判すべきは最高検でしょう。因みに現在の法務省事務次官の黒川氏は安倍首相の懐刀と言われていて、「捜査中なのでコメントしない」→「検察は起訴しない」という安倍内閣の鉄壁の不祥事隠蔽・情報非開示システムの要の人物です。なまくら検察が役に立たないのなら、今こそ国会調査権を行使して、徹底的に事実を明らかにすべき時です。

 今回の不起訴処分では、検察は権力者に都合よく法を恣意的に解釈しました。でも検察の雇用主は、首相ではなく我々市民です。市民の信頼を裏切った検察が今、真に恐れているのは市民の心底の反発です。金丸事件を不起訴にした際、批判の矛先が検察に向けられましたが、検察内ではその再来を恐れています。現場では自分たちが市民と社会正義に背信したと自覚しているわけですね。これでは「検察は死んだ」と非難されても仕方がないでしょう。

 日本には検察を監査するシステムは存在しません。監査なければ腐敗する、というのは歴史の鉄則で、これが冤罪事件の温床にもなっています。検察監査システムの導入は喫緊に必要です。あと情報を開示しなさすぎる。捜査中の情報の公開を禁止している刑事訴訟法は、情報隠蔽法と呼称を変えた方がいいかもしれません。

 ここまでくるとひとりの大人として、子どもたちにこう言い聞かせるしかありません。

「よい子のみんな、霞が関の偉い役人や閣僚になる政治家や権力者の悪事をわざと見逃す検察官みたいな大人になってはダメですよ。あれは悪い手本ですからね」

 なぜ一介の作家にすぎない私がこのようなことを言っているのかというと、報道分野や市民の間で、安倍政権には何を言ってもムダだ、という諦念が漂っているように思えるからです。

 それは独裁者の思うつぼで、その無作為はファシズムへの道につながります。それを抑止する唯一の手段が、諦めずしつこく抗議する、ということなのです。これは歴史が証明しています。独裁者は臆病で、評判や体面を気にするものなのです。

 実は今、安倍政権は文民統治の民主主義国家の根幹を破壊しつつあるのです。

 それにしてもそんな安倍政権を、問答無用で支えている現在の政権与党・自民党の空気は、かつて下野した頃に似てきました。本当に学習能力の低い政党ですね。


 この文章を仕上げている最中、テレビでは米朝首脳会談の画像が繰り返し流されています。

 トランプ大統領と金正恩委員長が固く握手をしている姿を見ていると案外この二人、似た者同士で実は仲良しなのでは、なんて感じてしまいます。二人とも、日本からいかにカネを引っ張るか、ということを考えているのでしょう。その後で安倍首相が辻褄合わせに躍起になって追認コメントを出している姿は、日本国民としては見るに耐えない情けなさです。

 でも、朝鮮半島の非核化は歓迎すべきことです。トランプ大統領はそれを更に加速させて、朝鮮半島の非核化だなんて小さいことを言わず、全世界の非核化をしてもらいたいものです。そうすれば日本は米軍へのみかじめ料を堂々と減額できます。米国に対し、そのように対応しないと安倍首相の判断は支離滅裂になってしまいます。


 さて、話は代わりTBS日曜劇場「ブラックペアン」、絶賛放映中です。主役の二宮和也さんの素晴らしい外科医の姿は、一般視聴者のみならず医療関係者の間でも大評判です。

 先日、エキストラ出演のため二度目の撮影現場訪問をしました。二宮さんに魅力的な外科医を体現してもらったことをひそひそとお礼を言い、竹内涼真さんに世良は成長してますねとお伝えし、小泉孝太郎さんに難しい役どころのご苦労を労い、内村遙さんにドラマの内容や医療の問題などをお話しし、市川猿之助さんと趣里さんにご挨拶しました。ふう、満腹。

 とにかくドラマの邪魔になりたくなかったので「セリフなし、動きなし」という条件でエキストラ依頼を受けました。作者の出演は座敷ワラシたるべし、というポリシーは守れたかと。

 でも現場の内側からドラマ見学できたことは楽しく、門外漢には得難い経験でした。

 ほんと、役者さんってすごい......。

 常日頃からドラマの医療シーンは医療監修の先生方の作品だと思っているので、医療監修のイムス・東京葛飾総合病院の山岸俊介先生とニューハート・ワタナベ病院の石川紀彦先生のお二方にお目に掛かり、お礼を申し上げられたのはありがたいことでした。特に山岸先生のドラマ公式ホームページの医療解説コーナーは素晴らしいのでご一読を。


 ドラマに対し臨床薬理学会から治験コーディネーターの描き方に対し抗議があり、話題になりました。5月2日、第二回の放映後に臨床薬理学会の公式フェイスブックにアップされた抗議文に端を発しています。TBSは真摯に対応していますので、経緯を見守っています。

 ですのでここでは別の角度からこの問題を掘り下げてみたいと思います。

 調べてみると治験コーディネーターという職種は国家資格ではなく自称でも成立し、学会毎に資格が乱立しているようです。そもそも治験コーディネーターが日本に何人いるのか、という基礎情報すらよくわかりません。臨床薬理学会も検定料を取り資格認定する資格ビジネスをしていますが、なぜか「臨床研究コーディネーター」という別称を用いています。

 治験コーディネーターに対する世間一般の認知度が低い理由のひとつには、まさにこうした学会の都合を優先した名称不統一問題があるのだと思います。

 私自身もこうした用語不統一問題に直面したことがあります。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)学会は今や会員数1300名を越える学術団体になっていますが、一部の法医学者は死後CTと言い換え、百名前後で「日本法医画像研究会」なる別団体を立ち上げています。また一部の法医学者は情報を遺族にも提供せず、結果、捜査ミスや司法過誤が隠蔽されかねない事態が出現しています。実はこの問題は意外に奥が深く、法医関連業務の監査を拒む原因になり、検察の監査問題とも直結してもいます。その辺りについては六月の新刊『死因不明社会2018』(講談社文庫)に詳しく書いたので是非ご一読を。

 このように用語分裂や資格不統一の裏には学会利権が絡む場合が多く、治験コーディネーター問題にもそんな利権争いが隠されているのかもしれません。そもそも公式フェイスブックで無記名で感情的な抗議文を公表するなど、伝統的な学術団体では見たことがありません。後日発表された正式な抗議文は抑制の効いた、学術団体らしい文章でした。では最初の抗議文は何だったのでしょう。その語調を真似れば「感情的な抗議文をいきなりネットで公表するような不躾な行為は、伝統ある学術団体では百パーセントありえません」といったところです。

 うわあ、やっぱり感情的。学術団体の見解というよりは、個人的感想ですね。

 治験コーディネーター問題はまず別称を廃して、資格を統一すべきです。それは学会上層部の意志でできますから、部外のドラマの内容に介入するよりもずっと簡単なはずです。

 TBSのコメントに対し、臨床薬理学会の対応は鈍いように見えます。こんな対応をしていては学術団体として評判はダダ下がりしかねませんし、それ以上に医療界はドラマに対し狭量に対応しているという誤った風評被害が起こってしまいかねません。

 でも現実のドラマは、良心的な医療従事者の献身的な協力のおかげで成立しているのです。


 今の時代、エンターテインメントに対し無謬を求める声が強すぎるように思います。それはエンターテインメントの未来を窒息させ、その結果、息苦しい社会になってしまいます。

 エンターテインメント界と医療界のキメラ的存在である私の目には、臨床薬理学会の対応は、問題点を共有しつつお互いに協力し、よりよい作品を発信して行こうという建設的な姿勢に欠けているように映ります。ドラマを一生懸命作っている俳優やスタッフの熱意が多くの視聴者に伝わっていることを考えると、臨床薬理学会の一連の対応は残念でなりません。


 そんな中、母校・千葉大学医学部付属病院でがん見落としの診断ミスがあったと発表されました。医療ミスはあってはならないことですが、ミスをしてしまったら、それを公表して原因を追及し、システムを見直すという対処は誠実だと思います。

 同列には語れませんが、日大アメフト部問題の日大執行部の対応や、森友加計問題に対しゴマカシに終始する安倍内閣の態度と比較すれば、その違いは明らかでしょう。

 放射線科は診断と治療の両輪から成りますが母校・千葉大では治療部門への比重が高く、診断部門を軽視しているように思っていました。世界初のAiセンターへの梃子入れを何度もお願いしても無視され続け、現在は開店休業状態におかれていることからも感じていたことです。

 まさかこんな形で問題が噴出するとは思いませんでしたが。

 再発防止策として千葉大は画像診断センターを設立し、10名の専門医を15名に増やすそうなので、これを機に千葉大Aiセンターも再稼働させていただきたいものです。

 Aiセンターはまさにそうした医療ミスを最終チェックするシステムにもなり、たとえば福井大Aiセンターは現在も積極的に活用されているのですから。

 千葉大学医学部付属病院の、改革への本気度はそこでわかると思います。

 まあ、母校に対しては入学式のスピーチをした時にいささか危機感を覚えていました。母校応援の心意気で通常の十分の一の額で引き受けたのに直前で更に減額されお車代程度にされたり(ケチくさい)、講演承諾書を講演後に送ってきて講演前日の日付で送り返せといってきたり(不法行為)、謝金手続きの封書に振り込み用紙がなくマイナンバー記入書だけ送られてきたり(支離滅裂)、普通なら講演後に主催者から丁寧な礼状が届くのがなのにそれもなく(恩知らず)と、グズグズで大丈夫なのかと思うレベルでした。現在の大学執行部と比べると、はっきりいって昨秋の医学部大学祭の執行部の対応の方がはるかにきちんとしていました。

 現在の経営陣には外資の団体が入っているようですが、外資特有の合理精神からか、礼節を重視しない方針のように見えたのはOBとして残念です。


 最後に、おかげさまで最新刊『玉村警部補の巡礼』(宝島社)は売り上げ好調のようです。

 本を読んで遍路に行きたくなったという読者も多く、遍路の宣伝に一役買えたかなとほっとしています。ミステリー仕立てにするため一部の遍路寺さんに少々失礼な表現になったりしている部分もなきにしもあらずですが、フィクションとしてご寛恕いただけているようで幸いです。本作は桜宮サーガという架空日本の物語であることは、読者は当然理解していますし、通読していただけば、仏教徒ではない私が遍路に心底ハマり、弘法大師さまをものすごくリスペクトしていることもご理解いただけると思います。

 一部の学術団体がドラマという創作物に目くじらを立てている姿と比べると、小さき衆生の不行状を広い心で見守ってくださる弘法大師さまのお弟子さまたちの大度量に、つくづく感服する次第です。南無大師遍昭金剛。


 最初は冒頭の訂正文を掲載してもらうだけのつもりでしたが、その後の諸々の事態が進展し、それに触れないのも私らしくないので、追記の形で掲載してもらいました。

    2018年6月12日  海堂尊
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