海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2018.04.27 2018:04:27:20:37:46

もう何が何やら、ひっちゃかめっちゃかな怒濤の春の嵐

  
 波乗りついでに『死因不明社会2018』刊行記念に2018年1月期の人気ドラマ「アンナチュラル」の脚本家、野木亜紀子さんに対談をお願いしました。「アンナチュラル」は法医学ドラマにしては珍しく法医マンセーの匂いが薄い、優れたヒューマン・ドラマでした。

 実はドラマ放映直前、雑誌「FLASH」から私に取材依頼がありました。「法医学ドラマなのに、なぜに私に? ははあ、ドラマではAiが重要モチーフになるんだな」と思った私は、取材は受けませんでしたが、ドラマは見ることにしました。オープニングにAi画像が流れ、やっぱりね、と思ったら、意外にもドラマではAiはほんの一瞬登場しただけでした。拍子抜けしつつドラマが放映されると、ツイッターのタイムラインには法医学者でもない私の名前がやたら流れるのに、肝心の法医学者の名前はまったく出ない、という皮肉な状況に(笑)。

 ところが第5話でAiが使われた翌日、Ai情報収集魔の盟友・塩谷部長から「ご存じかもしれませんが、こんなツイートがありました」というお知らせメールが来ました。

 そこにコピペされていたのが以下の野木さんのツイートです。

「バチスタシリーズを見ている方ならお馴染みの『Ai』について。当初Aiで一話つくろうかと思いましたが全10話に入らず。五話で(中略)一瞬出すに留めました。Aiは遺体をMRIやCTにかけ傷をつけずに調べる技術。解剖医が足りない現状では死因究明の急先鋒として期待されているが問題も多い。CTやMRI画像を診断する技術を持ち合わせているのは放射線科医。だが彼らは法医学者ではない。逆に法医学者は放射線科医ほど的確な画像診断を行えない。つまり両方を兼ね揃えた医師が必要という中でただ機器を増やし『Aiで確認したから解剖なしで大丈夫』となると死因を見落とす可能性がある。もちろん何もせず火葬するよりはAiで診断した方がいいに決まっている。だがAiだけではわからない症例も多いので理想は『Aiで調べた後、解剖調査する』というのが法医学者側の見解。そのため本作では『何にせよ解剖は必要』というスタンスをとっている」(一部省略・傍線筆者)

 実はこれ、私が問題視している「解剖至上主義者」のスタンスに近い発言なのです。問題は、放射線科医と法医学者の「両方を兼ね揃えた医師が必要」という部分でそこは間違いで、それはベターですが無理に達成する必要はなく、画像に関し法医学者が放射線科医にコンサルトすれば済む話です。実際、医療現場では内科医や外科医しかいない病院でも、画像診断に困ったら外部の放射線科医に診断を相談します。それは患者に対しベストを尽くすためで、法医学者が死因究明にベストを尽くすつもりがあるのなら、専門外の画像診断は専門家に委託するはずです。たぶん野木さんは法医学者から聞いたことを、深く吟味せずそのままツイートしたのでしょう。(なぜならAiはちょっと出しただけ、という意識ですからそれは納得できます)。でもこのままではAiについて誤ったイメージが拡散されてしまう。ならば『死因不明社会2018』も出版されることだし、法医学者の暗部をお伝えするには対談はいい機会だ、と考えたのです。幸い野木さんは対談を受けてくださるようです。さすが社会正義と遺族のために邁進する正義の監察医、ニュー・ヒロイン三澄ミコト先生(余談ですが「みこと」を変換したら一発で「尊」と出た・笑)の生みの親だけのことはあります。


「アンナチュラル」放映時、多くの視聴者が主人公のモデルである法医学者を差し置いて、法医学者ではない私の名をツイートしました。中には「このドラマをみて海堂先生はどんな印象を持ったか、知りたい」というようなツイートもありました。それはなぜか。

 理由は簡単です。法医学者の業務は警察が扱う20万体の異状死体のみが対象です。東京都23区、大阪市、神戸市という監察医務院設置の三地域は例外ですが、監察医務院は昨年神奈川で廃止、名古屋は開店休業状態、大阪でも廃止が検討されかろうじて存続が決定された、という状況で、日本全体では明らかに撤廃方向に向かっている例外的存在です。なので法医学者の死因究明は基本的に捜査の一環になので遺族にも死因伝達を忌避します。つまり法医学者の大部分は死者全体の2割にしか対応していない上に、市民の切実な要望にも応えられないのです。それを思えばつまり法医学は市民のための医学ではなく、警察捜査のための医学になってしまっているのが現状なのです。

 一方、私が対象としているのは日本の全死者130万人で「Aiの撮影は専門家の放射線技師が実施し、診断は専門の画像診断医が実施し、費用は医療現場に支払われ、死因情報は遺族と社会に公開される」という「Aiプリンシプル」を推奨しているので、死因究明制度の本質的な問題提起者であり同時に解決策提唱者だと、広く市民に認知されているのです。

 2018年4月現在、28大学の法医学教室にCT機が導入されていますが、大多数の法医学者は今も頑なにAiという用語の使用を忌避し、「死後CT」と呼び続けています。

 法医学者が実施する「死後CT」は次のようなものになってしまっています。

「機械のメンテナンスが不十分な機器で、画像診断の専門家ではない法医学者が撮影し、正式な診断レポートを作成せず、情報は遺族や社会に出し渋り、監査もできず、いい加減に実施されても情報公開しないので、社会に診断レベルの低さがバレない」というものです。

 実はこれが日本の「死因不明社会」の闇の大きな部分を占めているのです。

 日本の死因不明社会は、
  ① 死亡時医学検索が実施されない遺体の部分
  ② 法医学者が究明した、死因情報が公開されない部分
 という二つの闇で構成されています。

 ①の解決策は解剖数を増やすことですが、手を変え品を変え努力しても解剖の実施総数は減る一方で、解剖を増やすことはほぼ不可能という結論が出ています。なのでAiを積極的に社会導入するしかありません。

 ②は「死因情報を捜査情報から外す」のが第一歩です。死因情報が捜査情報とは法律に明記されていないので、法解釈で公開原則を打ち立てることは可能です。死因が捜査情報なら、死因報道は捜査情報漏洩に該当し刑事訴訟法に抵触します。でも捜査本部が死因をメディアに垂れ流す以上、死因は捜査情報ではない。だから社会認知さえされれば簡単にできる。

 Aiで判明した医学情報を公表しないのは、そんなことをしたら捜査ミスや法医学者の鑑定ミスが外部にバレてしまう可能性があるからです。でもAi情報を外部で診断すれば死因不明社会の大きな部分を占める、法医学者が関わる死因不明社会の闇は解消できる。

 でも、だからこそそれはいい加減な鑑定をしても咎められない法医学者には容認できない。

 Aiにアレルギーを示す法医学者の言い分は説得力がなく感情的です。

 法医学者に「死後CT」を扱わせたらAiはいい加減に扱われてしまう。過日、東京都監察医務院の福永院長が医師会でプレゼンした際、私がAiについて質問すると、同院では解剖全例と持ち込み検案全例に死後CTを実施していると答えました。でも持ち込み検案は全例解剖していません。つまり「死後CT」だけ実施して解剖しない症例もあるわけで、これは従来の法医学者の主張とは反しています。

 またAi情報の劣化を危惧した私は「よろしければAi情報センターで読影協力しますよ」と福永院長に打診したところ、「都の情報なので外部委託は難しい」という返答でした。プレゼン時、検案件数と解剖件数はグラフで提示したのに「死後CT」の件数は掲載せず、聞かれて初めて公表する。これではAi情報の隠蔽と見做されかねません。年間10億円という巨額の都税を投じている東京都監察医務院にCTを導入したニュースは大々的に報じられたのですから、監察医務院のホームページにAi実施数を記載することは公的機関としての義務です。データ公表しなかったのがうっかり忘れたのであればAiを軽視している証拠だし、Aiが死因究明に有効である事実を隠蔽したい、という法医学者の思惑から行われたとしたらとんでもないことです。いずれにしてもAiの件数を公表しない東京都監察医務院は職務怠慢ですので、都税納税者として監督官庁の東京都庁に強く抗議したいと思います。

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