海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2014.10.20 2014:10:20:15:56:49

さて、感動の最終回は後書き風に。

 7年と7ヶ月続けた海堂ニュースも、今回でとうとう最終回を迎えることとなりました。

 ブログを閉じるにあたっての感慨は特にありません。各回、単発のブログを書き続けてきただけで、たまたまキリがいいからここらで終わりにしようと思っただけです。そんな風に言ったら担当Sさんから「それは普通の人の感覚ではないので、そういったことを最終回に書いたらいかがでしょう」と提案されたので、従順な私は素直にその提案に従い、最終回のブログを始めることにしました。書籍化しても宝島社さんにお願いして、書籍化してもネット記事は残しておいてもらおうと思っています。

 

 ブログを閉じようかな、と考えた機会は2度ほどありました。1度目は11年8月、厚労省のAi検討会で講演した直後です。でも『ゴーゴーAi』を執筆しているうち、うっかり忘れてしまいました。

 2度目は12年6月、死因究明関連2法案が成立し、その文言に死亡時画像診断という用語が明記された時です。これでAiの社会導入が果たされたのでもういいかなあ、と思いました。この時は、翌13年年頭に関西テレビが『螺鈿迷宮』ドラマ化と、続編『ケルベロスの肖像』映画化が決まり、併せて新作続編と文庫化3連打を思いついたので、その紹介のために伸ばすことにしました。

 そして今年4月、映画公開を終えた時、ついに延長理由がなくなりました。

 ものごとを続けるのは大変ですが、終わりにするのも結構難しいものなのです。 

 

 思えば第1回は厚労省の担当官からAiの勉強会の講師をお願いしたい、というメールをもらい、その経過報告のために始めたのでした。それが厚労省からドタキャンされ、その後立ち上げられた厚労省の公募科学研究は、研究実績ゼロで画像診断の門外漢である東大病理学教室の教授を主任研究者に据えるという、科学研究としてあるまじき人選をしたためブログで抗議したら名誉毀損裁判に訴えられ、一部表現の瑕疵で民事裁判に敗れたもののブログの公益性は裁判所からも認められました。

 深山班研究の内容は科学的には参加した班員からも批判されるほど稚拙なものでした。ひと言で言うと、「Aiの有用性の評価を、独自に設定した評価基準で、班員の検討を全体討議せずに決めた」ということで、学術論文としては採択されないと、研究協力者が断言しています。このあたりは長くなるので拙著『ゴーゴーAi』の飛翔の章の406432ページ、『ほんとうの診断学』第2章・深山班研究批判をお読みください。でも結局、バイアスのかかった深山班は、事前の予想通り、「Aiは解剖ほど有用ではないので単独使用はすべきでない」という、結論ありきの報告書を公表しました。

 私は深山氏を批判したのは、アカデミズムの学会のトップとしてのモラルに欠けると思ったからですが、本当の問題はそれが厚労省の国策に沿っていたということでした。その国策とは医療事故調査委員会を作るため創設された、診療関連死モデル事業の存続です。モデル事業を解剖を主体ではなくAi主体にした方がいい、というのが私の主張で、これが厚労省の意向に沿わなかったのです。

 

 そもそも医療事故調の創設は、2000年前後に頻発した医療事故に対する警察捜査により医療現場が混乱したため、自分たちの手でそれを解消するための新しい仕組みを作りたいとした内科学会が主導し医学界の総意としてまとめあげ、厚労省に働きかけ実現したものです。

 解剖は2%しか実施されず、年々実施数も減少し続けている、滅び行く検査です。なので私は解剖主体ではモデル事業は立ち行かなくなると危惧し、意見を発信し続けました。

 なぜ天下の内科学会ともあろうものがそんなシステムを作ろうとしたのか不思議でしたが、モデル事業を立ち上げたある内科医に直接質問してみて、疑問が氷解したのでした。

「それはね、君、解剖は実施数が少ないから、対応件数も少なくて済むからだよ」

 

 そんな内幕も知らずに医療事故被害者遺族会の代表の人たちは厚労省の手の内に収まり、Ai推進にはメンションせず、解剖主体のモデル事業を支持し続けています。でもモデル事業の根幹の設計が実は、厚労省と医学界上層部の間でこっそり、少数にしか対応できない仕組みにされていたわけです。Aiにそっぽを向き続けた遺族会の人たちは結果として、これから先も満足できずに、常に同じ不平不満を外部に向かって垂れ流し続けることでしょう。

 医療事故被害者の遺族会には、厚労省に異を唱える私を敵視する雰囲気さえありましたが、彼らにとって最大の応援者になるAiを無視し冷遇したという、残念な結果になってしまったわけです。

 

 死因究明という、診療関連死において証拠を提供するという重要なエリアにおいて、モデル事業が目指したのは、医療関連死に特例的に適用される新しい解剖制度の枠組みを作ることでした。でもこの判断は根本的に間違っています。解剖という土俵に立ったら、司法解剖という強制力を持った制度に勝ち目はなく、医療事故調に行く前に司直の手に渡ってしまうからです。

 そのため遺体という、医療事故事件の証拠品を傷つけることなく事前調査できるAiを医療現場で実施し、その結果で事件性の有無を医療現場で判断すればいいではないか、というのが私のAiセンターの医療事故調査室設置構想です。

 でも医学界上層部は、自分たちが構築したモデル事業に固執し続けた結果、モデル事業は実地に使えないシステムになってしまいました。たとえば名古屋大1歳男児保冷庫留置事件では遺族にはモデル事業の存在すら伝えられませんでした。品川美容外科患者死亡事件では、東京というモデル事業の本拠地のお膝元で起こったのに、いきなり司直の手に渡り、モデル事業は出番がありませんでした。

 一方、Aiセンターは名古屋の事件では遺族の心を納得させ問題を解決し、また長野で起こりかけた司法過誤と思える医療事故案件を未然に防いでいます)。Aiの導入は良心的な医療の橋頭堡になるのですが、学会上層部はかたくなに自分たちのシステムに固執し続けています。

 

 医療事故調の設置は自民党が推進し、民主党政権になって停滞しました。当時の厚生労働政務官はモデル事業の問題点を理解はしていましたが、官僚の口車に乗せられ、廃止せずに予算をモデル事業からAiに付け替えさせるという弥縫策で対応しました。その結果、民主党から政権奪回した自民党の下でモデル事業は蘇生し、先日、医療事故調法案も成立してしまいました。

 ただし政権交代のおかげで、厚労省においてAi検討会が成立、医師会がかつてから提言していた「Ai費用の国費拠出」と「小児死亡例全例Ai実施」が、厚労省の検討会からの提言として公表されたのはエポックメイキングな出来事でした。しかし厚労省は2年以上、この提言を何もせずに放置し、ようやく先日「小児死亡例Aiモデル事業」を立ち上げたところです。

 

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