海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2018.04.27 2018:04:27:20:37:46

もう何が何やら、ひっちゃかめっちゃかな怒濤の春の嵐

  
 久々に海堂ニュースを書いているとデビュー時を思い出し、幸せな作家スタートを切らせていただいたなあ、と思います。当時と比べると書籍売り上げは半減しています。私はブログを止める頃からそんな空気を感じ、「年三作」の方針を「年二作、もしくは一作」に変えました。その後、文芸書売り場の面積が三分の一、四分の一、ついに消滅したりする惨状になっています。それは書店が書籍の多様性に背を向けたのも大きな要因だ、と考えていた私は、以前ならそこで本屋大賞批判に走ったでしょう。でももはや何を言ってもムダそうなので、作家としてできること、つまり他の人が書かないものを書き、書籍の多様性に貢献しようと考え「ポーラースター」シリーズに取りかかったのです。

 今や本屋大賞は書店員、版元、作家が一体となり本屋大賞を取るためのプロジェクトに励まないとノミネートすらされない状態だそうです。今回ノミネートされた作家のツイートによれば、本屋大賞とは「応援する書店員さん同士の戦い」らしい。でも大賞を決めるのに議論の場もなく投票だけなのに書店員は一体どこで何を、どう戦っているのでしょう? 謎だ。

 私は、本屋大賞に投票した六百余人の書店員さんから「一番売りたい」と思ってもらえなかった作家ですが(しくしく)、読者に楽しんでもらうために一生懸命書いたという点ではノミネート作家に引けを取らないつもりです。なので六百人の本屋大賞投票書店員ではなく、投票しなかった三万人の書店員さんと一億数千万人の日本人読者に「一番売りたい、買いたい」と思われるような物語を書こうという気概を持って執筆に励んでいこうと思います。

(初稿ではこの問題には触れていなかったのですが、目の前でまた例の大騒ぎが展開されてしまったので、つい脊髄反射で......。またつまらぬモノを斬ってしまった。)


 でもこれは他人事ではなく、業界全体が不景気だとなかなか思うようにいかない部分も出てきます。現在執筆中の「ポーラースター」シリーズは版元の文藝春秋さんも腹をくくってくれていて、執筆開始早々に四部作を認めてくれました。これは今の出版界では稀有なことだと感謝しています。でも執筆しているうちに「桜宮サーガ」が増殖していったように、「ポーラースター」シリーズも拡張傾向が出て来ました。その部分の刊行企画がなかなか通らないのです。これには私の執筆開始時の見込み違いもあります。執筆にあたり資料は相当読み込んだのですが、やればやるほど自分が中南米に関して、いかに無知だったか思い知らされるばかりで、一冊の新たな文献に遭遇して一章丸々書き直した、なんてことはザラです。

 たぶん今の作家の中ではラテンアメリカについて五指にはいるくらい詳しい、と自負していますが、それでもまだ無知に近いのです。

 現在「ポーラースター外伝 フィデル!」を週刊文春で連載中ですが、これも大作になりそうです。執筆に取りかかったのは二年前で、かなり書き進めた後、長らく中断しました。

 カストロを書こうと思ったのはチェ・ゲバラの生涯を書いているうち、キューバ革命の凄味を伝えるにはゲバラ視点だけでは難しいと気づいたからです。ゲバラはキューバ革命の立役者ですが、キューバ社会では新参者で、彼の視点だと回想や他人の言葉、地の文での展開が多くなってしまい、臨場感ある物語を展開することが難しくなる。執筆していてそう気がついた私はキューバ革命の真打、フィデル・カストロも書けば問題は解決すると思い至り、外伝執筆に取りかかったのです。すると今度は、キューバ現代史は1898年の米西戦争に根ざしているとわかってきて、そこをきちんと書くにはフィデルの父アンヘルの時代から始めないと難しいとわかりました。そこで執筆中だった現在連載中の「フィデル!」の筆を止め、父アンヘル時代からフィデル高校時代までの物語を書き上げてから改めてフィデルの大学入学場面からの連載執筆に戻ったのです。米西戦争の基礎資料の研究から始めセオドア・ルーズベルトの生涯、パナマ運河建設など、歴史の海原に横たわる膨大な資料との格闘の日々でした。

 カストロのパパの話なんて誰も読みませんよ、なんて声も耳にしますが、そんなことはありません。読めばきっと誰かの心に届くはず。その時代に米国がキューバに対してやったことは、今の日本への態度と瓜二つです。キューバ現代史を学ぶと、米国の属国と化している現代日本の姿が見えてきます。アメリカの基本精神はカストロの父アンヘル時代のセオドア・ルーズベルト大統領が作りました。でもそのあたりは日本では関連書籍が少ない。私が書いた物語はそんな根っこを理解するのに役立ち、何より面白い。懸命に働きかけているものの、今のところ出版の見込みは立っていません。でもこの物語は今の日本で、世に問う価値はある。

 なので粘り強く提案し続けていこうと思っています。

 文藝春秋さんは優れた国際ノンフィクション作品を出し続けた、気概ある出版社で、ポーラースター参考文献にも文藝春秋さんの書籍が多数ある。私が「ポーラースター」シリーズを文春さんでやらせてもらおうと考えたのも、そんな背景があったからです。

 さて、そんな作家の思いに応えてくださる心意気が、現在の文春さんにありやなしや。 

 因みに収集した参考文献は2018年4月現在、累計1500冊を突破しました。


 地球の反対側、しかも半世紀以上前が舞台では現代日本とは遠いと感じても不思議はありません。けれども米国に阿る政治家が力を持ち独裁者然と振る舞い、国民を搾取し富が偏在する、というカストロの革命前のキューバの姿は、今の日本とそっくりなのです。

 フィデル・カストロが革命で打倒したのが、米国からミスター・イエスとバカにされていた独裁者フルヘンシオ・バチスタであったことは有名ですが、その前のグラウ、プリオという二代続いた民主的な大統領も同じくらい腐敗していて、フィデルはバチスタの前の、プリオ・ソカラス大統領にも反対運動を仕掛けていたという事実は日本ではあまり知られていません。

 プリオ大統領は権限を濫用してお友だちを優遇し、自分の息の掛かった企業に国有地を破格の安値で払い下げて兵隊に耕作させ、雇い人の娘の幼女を強姦した大地主を恩赦で無罪にした挙げ句重要な地位につけたり、とやりたい放題の国家元首でした。

 ほんと、どこぞの首相と瓜二つ......、ごほん、いえ、何でもありません。

 ただ日本のいい点は、反対派を粛清まではしないことで、そこが当時のキューバと決定的に違う。だから逆に市民は安閑としすぎているのかもしれませんが。


 そんな安倍政権が今、揺らいでいる。私は週刊文春の「フィデル!」連載初回に「安倍政権は改憲前に核禁止条約に一日も早く批准すべきだ」と安倍政権の外交姿勢を批判しました。

 私が安倍政権を非難するのは、政権が強行採決した法案の多くが市民の権限を削り国家の権力を強め、戦争へと向かう整備を想定しているかのように見えてしまうからです。私は、自由な社会で好きなことをしてぐうたら暮らしたい。でも安倍政権が推し進めた政策は、社会を私の願望と真逆の状態に導いてしまいそうです。

 確かに現政権も豊かな社会を目指してはいるようですが、それは大企業や政治家、上流階級の優遇であり、一般市民が遍く広く豊かになる道ではないように見える。

 物忘れの早い市民に代わり指摘すると、安倍政権は「待機児童ゼロ」の公約はいつも先延ばしするのに、大企業優遇政策や自分がやりたい改憲は脇目も振らずに数に任せて強行突破しようとする。安倍政権が子どもを持つ家庭に対し配慮を欠くのは、彼自身が子育ての大変さを実感できないからでしょう。今なら不要になった北朝鮮のミサイル攻撃に対する迎撃システムの購入をキャンセルし、費用をぶっ込めば待機児童問題は相当解消できるはずなのに。

「医療と子どもを軽視する社会に未来なんてない」(@ナイチンゲールの沈黙)というのは某放言作家の小説の一節ですが、その伝で行くと日本の未来はなくなってしまいそうです。

 
 同時にこの騒動の陰に隠された思惑も見抜く必要がある。安倍政権が弱体化したのがあまりに急激すぎるのです。盤石に見えた安倍政権がなぜ突如揺らいだのか。今年1月、防衛省が米国から購入した核ミサイル迎撃システムが稼働せず、5発中3発は迎撃に失敗したという記事が報道されました。これでは国民は血税で高価な無駄遣いをさせられたことになります。

 そもそも北朝鮮が日本に核ミサイル攻撃を仕掛けるのはジオポリティックス的にはメリットが乏しい。先制核攻撃は相手の反撃力を奪うのが主目的だから、攻撃力のない日本を標的にするのは愚の骨頂、本気でやるつもりなら米国本土か、在外米軍基地を標的にすべきなのは戦略家としては常識です。攻撃能がない日本を核攻撃したら世界中から非難される上、米国が主導し構成される多国籍軍の攻撃に大義を与えてしまう。なので現実的にありえない。もちろん北朝鮮の元首が感情的な人物であれば、暴発する危険はゼロではないものの、ここ一年の米国との交渉を見ていると総て計算づく、トランプ大統領べったりの安倍首相よりも外交インテリジェンスは数段上に見える。その証拠にトランプ大統領に立派な人物だとリップサービスまでさせてしまうのですから。

 安倍内閣は昨年の総選挙では、本当は森友学園問題でスキャンダルでごたついたのに、「北朝鮮から攻撃されるぞ」と国民を恫喝して国難に仕立て上げ、総選挙に大勝しました。確かにミサイル試射はありましたが、あれが本気なら警戒する必要のないレベルだし、フェイクなら安倍政権は北朝鮮恫喝外交に踊らされただけになる。Jアラートなんて今や無用の長物です。

 挙げ句、南北融和ムードの尻馬に乗ったトランプ大統領が北朝鮮と会談なんぞした日には、安倍外交は梯子を外され、米軍につぎ込んだ防衛費は無駄になる。だからトランプ大統領に追従する安倍首相もさすがに異議を唱える。トランプ大統領は一廉のビジネスマンなので、ここで安倍首相の梯子を外せば一番儲けが大きくなると即断、日本政府に打撃を与えてレイムダック状態に置こうとした。

 そう考えると森友学園で財務省に打撃を与えた次に防衛省の日報隠しの露見、という流れは単純かつ効率的で実にわかりやすい。安倍下ろしの仕掛け人は米政府なのではないか、というのが国際謀略作家・海堂尊の真実の暴露、いや、妄想小説のプロットです。

 もともと米国の諜報を支えるCIAという組織は発足当時から、腐敗した属国政権の首のすげ替えと、自分の頭で考えない愚民が多い属国をプロパガンダで左右することの二つだけはお上手です。この辺は私の妄想ではなく『CIA秘録』(文藝春秋)という名著で裏付けられるので是非ご一読を。本には、安倍首相の祖父・岸信介首相と叔父・佐藤栄作首相率いる自民党がCIAから相当額の資金援助を受けていたなんてことも暴露されていましたっけ。

 安倍首相はトランプ大統領に舐められている。敵視していた北朝鮮に懐刀のCIA長官をこっそり派遣しておいて、同盟国日本に伝えもしない。不実の極みですが、北朝鮮をダシにして軍事費を日本にたっぷり拠出させたら、安倍首相は用済みなのです。

 今のままでは日本外交=米国外交と見做され「虎の威を借る狐」外交だと北朝鮮にまでバカにされてしまう。北朝鮮は米国と話し合いすればよく、日本は米国の言うことを何でも聞く子分だから日本に配慮なんてしない。だから残念ながら拉致被害者の帰国は難しいでしょう。

 かつて小泉元首相は米国に頼らず、独力で拉致被害者帰国を実現させたからサプライズで、支持率が跳ね上がったのです。米国一辺倒だと日本の国際交渉力は低下する一方です。

 そして4月27日、この文章の最後の仕上げをしている最中、南北朝鮮の首脳が国境で握手をしている画像が全世界に配信されました。安倍首相の素早い率直なコメントをお聞きしたいものですね。
 米国と訣別せよ、なんて非現実的なことは申しません。でも日本には日本の立場があり、是々非々で対応すべきです。だから日本は今こそ、核兵器禁止条約に調印すべきでしょう。そうしないと日本に残された道は、逆に核武装するしかなくなってしまう。トランプ大統領とゴルフをやったりバーガーをご馳走になっている場合ではないんです。

 自称愛国者で安倍政権を支持しているネトウヨのみなさん、今は力なき「パヨク」を攻撃している場合ではありません。それよりも北朝鮮と交渉の席に就くなどという、みなさんの主義主張からしたら許しがたい方針転換をした、安倍外交に対する裏切り者・トランプ米国大統領を全力で糾弾すべきです。私はネトウヨのみなさんと主義主張はまったく異なりますが、そうすればこの件に関しては是々非々で陰ながら応援します。

 米国べったりの安倍首相の姿は、カストロ以前のキューバの独裁者と瓜二つです。

 私が描くキューバの物語を読めば、今の日本社会の惨状が浮かび上がってくる。こんな風に「ポーラースター」シリーズは現代日本にも通ずる物語なのです。ですので読者のみなさんには是非、「ポーラースター外伝・アンヘル(フィデルのパパ)篇」が刊行できるよう、応援をお願いします。

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