小児科学会の方々は、おそらくこれまでのそうした動きをご存じなかったのかもしれません。ですがその講演を聴いた千人弱の関西の小児科医はすでにこの事実を知りました。そして小児科学会全体の方針として小児死亡例のデス・レビューをきちんとしようという方針が提唱されている。
であれば今春、小児科学会から「小児全例のAi実施を望む」という宣言が発表されても不思議はありません。いや、そうしたことをしなければ、市民社会からみれば学会としての存在意義すら疑われてしまうでしょう。
今、小児科学会は市民社会と向き合おうとしているのだと信じたいです。小児科医は、もっとも弱者への優しい気持ちが強い人たちがなる職業なのですから。遺体を傷つけず、わかることをできるだけ理解しようというAiが内包する精神は、まさに小児科医のための強力なツールになる、ということは間違いないでしょう。
小児科学会の諸先生方に、高らかな宣言を出していただけることを期待します。
今、内閣府が主導する死因究明制度の枠組みを考える検討会が月一回、開催されていて、そこでは医療部門からは日本医師会と日本放射線学会の代表者がメンバーに入っていて、Aiの実施に関して積極的な提言を繰り返しています。しかし議事録をみると、この検討会の内容が法医学部門の問題に偏向しているような感じがします。
笑止千万なのは、死因究明推進法が、法医学研究所設置法ができなかった代わりの先送り法だ、などというアングラ情報です。百歩譲ってこれが本当だとしたら、やはりこの法案は、法医学者が自分たちの領域の既得権益の拡大に走った愚法だったと結論づけられます。日本の死因究明の骨格ががたがたなのに、それを全体で解消しようということが目的だったはずなのに、実はそれが死因究明の対象としては全体の1パーセントにすぎない領分である司法解剖と行政解剖を優先する法案だと認識するとは、市民社会全体への配慮が欠けています。
法医学研究所という名称が明らかにしているのは、法医学者たちが自分たちの利益になることしか考えていない、しかもハコモノ企画を推進しようとしたという、あさましい精神です。日本の死者百二十万人全体に対応する仕組みを作ろう、という気概に欠けています。