「CTだけで犯罪性や死亡の経緯まではわからない。大相撲の時津風部屋事件でも遺体はCT検索を受けたが、医師から異常なしとして処理され、警察はそれを理由に捜査を怠った。」
(2012年9月14日、東京新聞夕刊4面より)
実はこの件は拙著『死因不明社会』(2008年、講談社ブルーバックスの210頁に詳細に問題点を指摘してあります。また、ブログでも何回か取り上げていると思います。
上記の発言は事実と反しているのです。病院で死因を調べた医師は、頭部CTだけ実施し、不審死として警察に届け出ました。その時の死亡診断書は心不全です。それを警察が事件性がないと判断し、虚血性心疾患という診断名で公表しました。
医師は、CTで死因がわからなかったから心不全と診断し、状況がおかしいと思って警察に届け出たわけです。そうしたら警察が勝手に心疾患に診断してしまったのです。しかも検査することもなしに、です。これが時津風部屋事件の真相です。したがって「CT検索を受けたが、医師から異常なしとして処理され、警察はそれを理由に捜査を怠った。」という文章は、警察のミスを医療の診断ミスにすりかえているので、事実と反する印象を市民に伝えかねない報道になっています。
法医学者が画像診断であるAiの領域に関し、勉強不足の発言を繰り返すのは今に始まったことではないので、指摘するのもバカバカしいですが、メディアがそうしたことを不勉強で垂れ流すのは大問題です。要するに法医学者にAiについて尋ねたら、Aiの専門家である放射線科医に確認を取らないと不誠実な報道になってしまいますよ、ということです。
バランスが悪いと思うのは、司法解剖が見落として、Aiが見つけた所見が事件の発覚につながったという実例がたくさんあるのに、それについて述べていないことです。法医学者にAiについて尋ねるのは、放射線科医に解剖について質問するのと同じことです。
「時津風部屋事件では、新潟大学の法医学教室で承諾解剖が実施されたが、その時判定された死因が不充分だったので、名古屋大学法医学教室で再鑑定が実施された」という事実と、上記の犬山署の判断ミスを知ってなお、この記載を掲載したのでしょうか。まあ、そうは思えませんが。