今回の指針を読むと、指針を出すために法医学者が放射線科医とオープンな場でディスカッションした証拠は提示されておりません。これは、これまでの法医学会の科学的姿勢に対する批判を受け止めていないということを示しています。こうした基本姿勢が、数多くの司法冤罪の温床になり続けてきたのだという事実に、ひとりひとりの法医学者は真摯に向き合い、自己批判すべき時でしょう。そういう観点から見ると今回の提言は、法医学会が同じ過ちの轍を踏む、過ちの拡大再生産を内包しているものだという謗りは逃れられません。
提言部分で興味深いのは、情報公開についてほとんど提言されていないことと、Aiに関する記述がほぼ皆無な点です。
情報公開については遺族窓口を作れという提案はあるものの、情報公開をどのようにすべきかについての原則にはまったく触れていません。彼らは情報公開についてはこれまで同様、やる気がないのです。やる気があるなら、「雇用の確保」と項目に明記する法医学会の見識を持ってすれば、「死因情報の公開」と明解に項目立てするはずです。
実は法医学者たちは原則として死因情報を公開したくないのです。
にもかかわらず、自分たちの雇用の確保ばかり声高に主張するということは、権利ばかりを主張して、義務について語らないという点で、まさに市民社会に対する背信行為そのものです。
第二の問題。なぜAiについて本文でまったく触れないのでしょうか。理由は簡単で、Aiに予算をつけるくらいなら、解剖関連につけてほしいからにすぎません。解剖への予算分捕りしか、彼らの目には映っていないからです。
でも、法医学者が実施する解剖は、日本の死者全体のわずか1パーセント強、ときわめて少数です。国全体の割合から見れば、この提言が目指すものは残りの99パーセントの死者に対する配分を犠牲にして、たった1パーセント実施している自分たちの領分を維持のために歪めようという、まさしく市民社会全体を考えたら、噴飯ものの提案なわけです。
こうした提案は、近傍領域であるAiの疲弊をもたらしますが、自分たちの権益しか考えられない法医学者たちはそんなことにはお構いなしで、結果的に計らずも社会を悪くしてしまっているということに気づこうとさえしません。
そしてその提言を、やはり市民のことなど考えない行政官が盲目的に遂行する。こうして日本はダメになってきました。
大変残念なことに、法医学会の提言は市民社会の利益という、一番大切にしなければならない視点がすっぽりと抜け落ちています。つまり法医学会とは、市民社会のためにものを考えていない集団だという事実を自ら露呈してしまった提言だ、ということがいえるでしょう。
しかし、Aiという新しい検査が出現することによって、そうした姿が明瞭になりつつあります。市民のみなさんは是非、法医学会の暴挙、暴走について、興味を持って監視し続けてください。