海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2010.08.02 2010:08:02:17:53:10

ついに厚生労働省の「死因究明に資するAiの活用に関する検討会」で講演を。

 ついでに問題点をもうひとつ。

③ 携帯型超音波検査装置(携帯エコー)の積極的活用 医療関係者の協力を得て、携帯エコーの一層の活用を図る。平成21年度補正予算で各都道府県警察に整備された携帯エコーは死体内の出血や病変の有無等の判別に効果があるので、現場における検死や死体見分において、犯罪死か否かを見極める上で有効である。

 エコーの死体検索における有用性は、学術的に確立されていません。医療従事者なら、死体に対するハンディタイプのエコーの有効性には、誰でも疑念を持つでしょう。驚いたのは、効果の根拠がはっきりしていないエコーが補正予算で簡単に配備されてしまった点です。これも医療現場を知らない警察の方々が行った、ムダな配備です。だいたいCTやMRIでさえ解剖に及ばないなどと主張している法医学者が、なぜ画像診断機としてはかなり非力なハンディタイプのエコーをそこまで高く評価するのか、さっぱりわかりません。Ai学会においても過去、死体に対するエコーの発表は一例か二例しかありません。私も2000年に3Dエコーの応用研究を実施しましたが、3Dの高度最先端機種でなんとかかろうじてというありさまで、当然、携帯エコーでは、死体の検索にほとんど役立たないということはわかっています。しかも実際に使うのは医学の素人の警察官とくるのですから、呆れ果ててものが言えません。この実施はコストパフォーマンスが悪すぎるのです。
 興味深いのは、エコーの項目には「医療関係者の協力を得て」という文言があるのに、CTにはないことです。これは、検討会を構成する、法医学者たちが「僕たちができるもん」と考えていることを示しているのかも。でも、法医学者の質の低い画像診断をベースにしたら、死因不明社会は改善しません。

 さらに見ると、「解剖率の向上」という項目で、解剖率20パーセントを目指す、とあります。「16万体の異常死体の20パーセントは、司法解剖7千体に加え、2万5千体の行政解剖、合計3万2千体をめざす」。そのために、「解剖医の増員」とあります。しかし海外の視察を行っているこの検討会なら、異状死解剖率100パーセント近い北欧の法医学者はひとりあたり年間350体の解剖を行っているという基礎データをお持ちのはず。日本の法医学者が解剖しているのは現在年間1万5千体、法医学者は120人ですから、ひとり年間125体勘定です。彼らが北欧の法医学者並みに働けば、なんと年間4万2千体の解剖が達成され、異状死解剖率は25パーセントを軽く超えます。日本の法医学者は、「解剖が多くて大変だ」といい、「北欧の解剖システムはすごい」と声高にいいながら、自分たちが北欧の解剖医の勤務の3分の1しか働いていないということは黙して語りません。
 そんな提言がこの検討会から出るはずありません。だって法医学者と法律家しか参加していない、内輪の有識者なんですから。外部の監査の目を入れる必要があるのです。

 というようなことを、CS朝日ニュースター「宮崎哲弥のトーキング・ヘッズ」で喋りまくっています。7月30日オンエア、その後、再放送もされるらしいので、ご覧になってみてください。
 こんな発言を繰り返しているせいか、一部法医学者からはいまや私はカルトの教祖扱い(笑)。「まずAiでファーストチェックを。わからなければ解剖を。そして診断は専門家の放射線科医に頼む」という主張がカルトだというのですから笑止千万。自分がカルト体質(批判に耳を傾けない・唯我独尊)である人ほど、他人もそう見えてしまうものです。
 解剖至上主義、というのは「Aiをやったら必ず解剖をしなければならない」と主張する一部病理医と法医学者の人たちです。その方たちは学会上層部に多く分布しています。地方の現場で悪戦苦闘している法医学者や病理医には、「解剖至上主義者」はいません。しかし、解剖至上主義の解剖医は実際に存在します。ひと昔前は病理学会のHPに堂々とそう書かれていたくらいですから。
 Ai優先主義とは「まずAiを行い、チェックし、そこで死因が確定すれば解剖しない。確定しなければ解剖を勧める」という姿勢であり、これは解剖至上主義とバッティングします。そして近い将来、解剖至上主義は、その主張の非論理性、非合理性、そして非現実性から滅亡する運命にあるのです。ちなみに悪評高いモデル事業は、「解剖を必ず行う」という縛りがあった点からすれば解剖至上主義で実施され、その結果大失敗に終わりました。これが現実です。
 私が主張していることは簡単で「Aiをやって死因究明をきちんとしましょう」ということだけなのです。

続きを読む 123456