海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.08.02 2010:08:02:17:53:10

ついに厚生労働省の「死因究明に資するAiの活用に関する検討会」で講演を。

 深山班の画像評価には重大な疑義があります。それは評価方法自体に、Aiを過小評価するようなバイアスがかけられている、というものです。報告書に掲載され、今回もプレゼンされた死産児の症例で、画像所見は「脳浮腫と未呼吸肺」、解剖所見も「脳軟化症と未呼吸肺」とほぼ同じなのに、Aiの評価は、参加者のアンケート用紙回収による多数決で「Aiのみでは死因究明は困難」と評価されています。
 おかしな評価ですね。その原因を探して評価項目を詳細に再検討してみてさらに驚きました。

<研究班の評価項目>
 1.Aiのみで病態解析及び死因究明が可能(病理解剖とほぼ同等)
 2.Aiのみで死因究明がほぼ可能(主病変が一致)
 3.Aiのみでは病態解析には一致しない項目もあるが、死因についてはほぼ指摘できる
 4.Aiのみでは病態解析は部分的に可能だが、死因についてはその可能性を指摘するにとどまる
 5.Aiのみでは病態解析ならびに死因究明は困難である

 これらは表現がわかりにくいので、以下に数学の記号を用いて表してみます。たとえば、Aiと解剖が同等なら、Ai=解剖ですね。

 1.Ai=解剖
 2.Ai≒解剖
 3.Ai≒解剖
 4.Ai<解剖
 5.Ai→×

 1〜3までAiが有効としながら、細分化することで評価を低く見せています。その上、評価は研究者アンケートで、議論なき多数決です。研究班なら議論で有用性を統一しなければ、科学的に正当な評価となりえません。画像所見と解剖所見を比較するのであれば、あるべき科学的に正当な評価項目は以下のようになるはずです。

<正当な評価項目>
 1.Aiは解剖より優れる
 2.Aiは解剖と同等である(病理解剖と主病変が一致)
 3.Aiでは死因究明できず、解剖が必要。
 4.Ai・解剖どちらも死因究明は困難(除外症例)

上記同様に数学的記号を用いて表現すると、このようになります。
 1.Ai>解剖
 2.Ai=解剖
 3.Ai<解剖
 4.Aiも解剖×

 正当な評価法ではこの症例は「2.Ai=解剖」もしくは「1.Ai>解剖」と評価されます。得られた所見は「2.Ai=解剖」ですが、解剖という侵襲を加えずに解剖と同等の結果を得られたわけですから、遺族の心情や社会的リソースの節約という観点からすれば、「1.Ai>解剖」としても過大評価ではない。こう考えると少なくとも、この症例を最低レベルの「5.Aiのみでは病態解析ならびに死因究明は困難である」と評価したのは科学的に問題アリ、でしょう。
 以上のような発表なら、『医師としての立場』で『「確かな資料」や「客観的な事実」をベースにご発言』という要請には充分対応していますよね。
 この検討会、議論内容は迷走気味です。第2回の検討会で弁護士の委員から、びっくりするような発言がありました。「遺体といえども被曝の危険性などを考慮しなくてはならないのでは?」というものでした。『ジェネラル・ルージュの凱旋』206ページに、エシックスの沼田がこねた屁理屈として、ジョークのようなエピソードを書いたのですが、まさか本当にそんな質問が出てくるとは。さらに驚いたのは、委員の誰も反論しなかったことです。そんなのはひとこと、こう言えば済む。
「一回検査は生体にも行われている被曝量なのでまったく問題ありません。被曝量が問題になるのは、蓄積する場合ですから、死者における一回使用に関してはなおさら医学的に問題はありません」
 検査被曝が問題になるのは、蓄積して病気になったり、最悪死亡する可能性があるからです。ですからすでに亡くなってしまった方には、被曝問題は消滅しているのです。
 選ばれた委員の先生方は優秀な医師も多いんですから、これくらい即座に言ってあげてください。でないと、医療に関して素人の弁護士の先生方が誤解してしまうでしょ? 
 ま、それはさておき、8月5日、厚生労働省省議室。どうかお楽しみに。

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