海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.03.24 2010:03:24:11:31:39

法医学会上層部が目論むAi導入は、遺族に対する死因情報提供を阻害する。

 診断システムとしては体系立てられていない司法解剖システム自体を検討し、改善する必要がある。しかしそれは法医学者にはできません。自分の病巣は自分では手術できないからです。司法解剖問題は、法医学者以外の有識者が冷静かつ客観的に議論する必要がある。でなければ、当事者はそうした問題を社会制度のせいにして責任逃れに終始するでしょう。
 たとえば法医学者がしきりに持ち上げている異状死解剖率百パーセントの北欧諸国のひとつ、フィンランドでは、法医学者ひとりが年間三百五十体の解剖を行っているそうです。
 日本の法医学者は百五十人弱。日本の法医学者が北欧なみに働けば、年間解剖数は五万体できます。警察が扱う異状死は概数で年間十五万体ですから、北欧並みに法医学者が働けば、異状死解剖率は三割を超えます。しかし現在は解剖率は一割を切っている。
 これは何を意味するのでしょうか。
 東京都監察医務院はその最たる組織です。法医学者が四十人以上いるのですから、彼らが北欧の法医学者並みに働けば、年間一万四千体の解剖が可能になる。これなら二十三区内に限定せず、東京都全域の異状死解剖がまかなえるはず。ところが監察医務院では年間三千体程度しか解剖されていない。こうした改革を提唱し、予算を請求するのなら、まずは東京都監察医務院が東京都全域の異状死を引き受ける、くらいのことをしなければ、社会に対し説得力はありません。
 ね、こうした改革案を、法医学者たちが自分から提案すると思いますか?
 司法解剖改革を検討は、法医学会以外の有識者を主要メンバーにし、法医学会の上層部の方を参考人として諮問するという形にならないと、市民に役立つシステムでなく、法医学者がラクをするシステムが作られてしまうのです。

 このような理由から私は、医療従事者を参加させずに法医学者だけで犯罪関連死に関する死因究明研究会を開催する、という枠組みに危機感を覚えるのです。現行の死因究明制度には問題がある。ということは、現在それを支えている法医学分野にも構造的な問題がある、ということです。問題を抱えている人たちが内輪で話し合えば、自分たちに都合良く、司法解剖システムのエラーの理由を外部に押しつける結論を出すでしょう。そうしたおかしな結論が広がれば、不利益を受けるのは、ひとりひとりの市民なのです。
 押尾学氏事件では、無くなった被害者の死因は遺族に伝えられませんでした。遺族があれほど望んでいたのにもかかわらず、です。つまり法医学者は、遺族のために死因究明するのではなく、犯罪捜査に協力するためにのみ死因究明をしていると言われても仕方がない状態です。
 こうしたことも法医学会が、「Aiの読影は放射線科医に依頼し、その診断費用をきちんと放射線科医に支払うシステムを作る」という、Aiプリンシプルを支持すると明言して下されば、私も法医学会上層部の批判をしなく済むのですが。
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