海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.03.24 2010:03:24:11:31:39

法医学会上層部が目論むAi導入は、遺族に対する死因情報提供を阻害する。

 警察や司法が、医療をいかに見下しているか、その現状を法医学者が容認していることなどが、こうしたメンバー構成からも透けて見えます。

 そんな中、興味深い話を聞きました。先週3月10日、長崎市の西彼杵医師会に呼ばれて講演したのですが、何と長崎大学法医学教室にCT導入ことが決定したとお聞きしたのです。その時、放射線科の先生が法医の先生から気軽に口頭で「Aiの読影を頼むよ」と言われたらしい。突然の話に放射線科の先生はずいぶん戸惑っていたとのことでした。
 ひとづての伝聞ですが、責任ある立場の方から直接聞いた話なのでお知らせします。
 この話にはふたつの意味があります。なぜか、法医学者はAiを導入したくて仕方がないこと。そうでなければ、全国の法医学教室に一斉に七台もCT導入が果たせるはずはありません。だって、財政難のこの時代ですよ。そしてもうひとつ。CT導入に関しては、事前に診断課である放射線科とのコンセンサスを取る部分が不充分な状態にあるように思われること。
 一方、佐賀大学医学部でも四月にAiセンターが立ち上がるのですが、ここでは一年かけ、設置準備委員会が開かれ、院内のコンセンサスを取っているそうです。
 法医学教室にCTを導入した魁は千葉大法医学教室ですが、ここでは系統立てられた読影システムが確立されないまま画像撮影だけが行われている、という現状をお知らせしてきました。このひな形が全国展開されてしまいそうです。そうなると、法医学者が撮影したCT画像を恣意的にコンサルトされ、応分の診断料ももらえないというボランティアを医療現場や放射線科医は司法に強いられることになります。これは結局、医療崩壊を加速させ、「司法栄えて医療滅ぶ」という状態になってしまいます。
 医療現場では仕事が増えるだけで、見合った報酬はない。その挙げ句、責任だけは負わされてしまうわけですから。法医主導でAiが導入されたらAiに対しモラルハザードが起き、結局、社会に害を為すシステムにさえなりかねません。また司法解剖自体が孕む問題点も解決できません。司法解剖は医学診断の一種のはずです。であるなら社会システムとして、検証可能なきちんとした診断レポートシステムがなければおかしい。結果は第三者が中立的に監査できなければ、これからの市民社会から信頼は得られません。これは医療現場では三十年以上前に確立されたことですが、司法解剖の現場では、戦前と同じレベルの診断情報開示システムしか確立されていません。
 医療現場ではこうした市民社会の要望に即したルールが確立されています。だからこそAiは法医学者が仕切るのではなく、医療現場で責任を持てばいい。進んでいる分野が遅れている分野を指導する。それこそ健全な社会の進歩に結びつきます。そしてそれこそが医療の自律にもつながるのです。
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