海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.03.02 2009:03:02:17:36:03

『 Aiセンター構想 』vs.法医学会提唱『 死因究明医療センター構想 』

 逆に言えば、だからこそこの費用を、法医学会は自分のところに誘導したい、というわけです。でも、それだけの費用を引っ張っての社会的効果は、『Aiセンター構想』よりもはるかに低いというのも事実でしょう。
 大変残念ながら、法医学会が提唱している『死因究明医療センター』構想は、ただでさえ医療崩壊が叫ばれている中、医療費からの費用拠出をシステムの土台に据えている、というその一点だけとっても、現在の社会情勢をまったく勘案していない、自己中心的で未熟な政策提言だということが言えるでしょう。

 この『Aiセンター構想』には、もうひとつ素晴らしい側面がある。それは「医療と司法の境界線」を引くことができるということです。多くの医療事故で、問題を大きくしているのは、医療現場における判断に対する、門外漢の司法のとんちんかんな介入による部分も大きい。だから、これまで検案をして死亡診断書を記載し、解剖の適否を決定していた部分を、Aiをエンドポイントにすればいいわけです。そこで問題があれば、中立的断三者機関に図り、対応を判断する。そして同時にその画像を遺族に呈示して、情報公開も行う。このことで、医療紛争を未然に防ぐことができるのです。 医療事故遺族が裁判に訴える一番の目的は、「真相を知りたい」というものです。ところが、解剖はその遺族の願いを叶えるシステムになっていません。病理解剖は、最高裁判決で、客観的情報として認められないと判断されてしまっていますし、司法解剖になると、捜査情報として隠匿され、遺族の下に直ちに知らされることはほとんどありません。
 『Aiセンター構想』では、撮影した直後に、医療従事者から説明をすればいい。そうすると、とにかく真相をできるだけ迅速かつ中立的に伝えることができる。おそらく、これで医療裁判のかなりの部分は未然に解消されるでしょう。
 これは医療における情報隠しではない。むしろ、医療現場から自立的に立ち上げられた、新しい医療監査システムにすらなる。
 そして、『Aiセンター』ができれば、今問題になっている医療事故調査委員会も簡単にできる。Aiセンターの一分室として設置すればいいだけのことになるのです。
 だからこそ『Aiセンター構想』は、司法分野に手渡してはならないのです。医療を守る最終防御ライン、それは『Aiセンター構想』にある。
 その構想は極めて単純、「Aiを医療のエンドポイントに置き、医療外からの拠出システムを作る」
 『Aiセンター構想』が、もしも法医学会が提唱するシステムに組み込まれてしまったら、おそらく第二、第三の「大野事件」が引き起こされていくに違いないでしょう。何しろ大野裁判事件判決で、異状死ガイドラインは適性でないともとれる指摘を受けながら、ガイドラインの再検討すら行おうとしない、法医学会の硬直した思考からは、崩壊寸前の医療現場を何とか建て直したい、と願っている現場医師の声がまったく届いていないことが明らかです。理由は簡単で、法医学者は「医療従事者」ではなく、「捜査に関わる医学者」だからなのです。

 面白い話があります。実は、法医学会関係者の中にも私のシンパはいて、こっそり教えてくれた話ですが、日本でも報道されましたが、二月にオーストラリアで大規模な山火事があり、大勢の死者が出たそうです。実はその遺体に関しては全例CTが行われている、というのです。これは法医学会関係者だけのメーリングリストで密やかに流されている情報なのだそうです。ですから真偽のほどは定かではありません。 オーストラリアといえば、厚生労働省班研究でオーストラリアの法医研究所の先生を講演に呼んだことがあるくらい、日本では法医分野での画像診断のモデルとして考えられている地域です。そこで遺体全例にCTを行っているなんて、まさしくモデルなのですからAiの重要性を明らかにできる重要な話です。
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