海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.10.29 2008:10:29:17:08:55

千葉大Aiセンターの概念拡張とその完成

『チーム・バチスタの栄光』が関西テレビでドラマ化され、現在フジテレビ系で放映中です。この先どうなるんだろう、と毎週楽しみに見ています。これほどまでに「原作者が」どきどきしながらみるミステリードラマは、この先二度と現れないのでは(笑)。
 ドラマはテンポよく、小説とまったく違う部分もありますが、ドラマの世界ではきちんと閉じた世界が作られています。なるほど、そうくるか、と感心させられる部分もあって、こういう骨格はいつか参考にさせていただこうか、などと思っています。あるいはドラマのノベライズとか。あ、もちろんジョークです。
 映像と文学の最大の違い、それは、何を描くかという部分もさることながら、何を省くか、という点が大きいものだな、と感じました。小説でたっぷり語られた部分がごっそり削られているかと思えば、小説でまったく触れられない現実が映像で詳細に露わにされている。こうなると原作というものは、ひとつの象徴という形の共通項になるのでしょう。
 その共通項とは、「医のこころ」。
 実は『バチスタ』の映画やドラマで密かに気に入っているのは、これが従来の医療ドラマと違い、現場の脱力系部分をわりと忠実に出しているという点です。正反対なのが、スーパードクターが「何が何でも患者を救う」と熱血するドラマで、私はそういう系列のドラマが苦手なので、(ドラマから、お前はサボっていてとんでもない、と密かに非難されているように感じてしまうのが原因だと思われる)、実はほとんど見ていません。
 医療従事者も市民なので、その人たちがみても納得できるドラマ、というのは医療ドラマの最低限必要とされる部分かと。細かな医療場面の正確さもさることながら、一番大切なのは、医療従事者のメンタリティの描写でしょう。大切なのは、医師は基本的には患者のためを思っているが、それが必ずしもすべてではないということです。その人のプライベートや職業外のことに関する関心なども当然含まれます。今起こっている医療問題の多くは、市民が「医療従事者も自分と同じ人間なんだ」という当たり前のことを忘れてしまっているから起こるのではないか、と思っています。
 医療にはミスがあってはならない、と言われます。だがそう言う人自身は、ミスを絶対しないのでしょうか? そんなことはないはず。それなら医療がミスを犯すことだって納得できるはずです。それを許せないと糾弾しすぎれば、医療は萎縮します。医療が萎縮すれば、未来の医師が育たない。今、医療を必要以上に糾弾しようとしている人たちは、ある意味で自分たちの未来を食い潰していくところがあるということを、一度考えてみて下さい。
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