海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.10.29 2008:10:29:17:08:55

千葉大Aiセンターの概念拡張とその完成

  さてここからは一般論です。現在の法医学者の惨状は凄まじい。たとえばつい先日まで、佐賀県には法医学者がひとりもいなかった状況らしい。先日放映されたNHKのクローズアップ現代では岩瀬教授も出演されておられましたが、同教室では未処理の鑑定書報告が20件、中には五ヶ月経っているものもある、という言葉が放送されていました。
1)法医学者は現在、解剖業務だけで手一杯である。
2)では、新たに専門外の画像診断領域に手を伸ばすことは困難ではないだろうか。

 対談の時には、岩瀬教授は基礎教室に設置するCTを、たとえば「法医学研究所」なる組織に組み込めばいいと考えていたようです。法医学とは社会的死因を総合的に判断する学問なので、画像も当然情報の一部に含まれるという主張です。
 これは正論です。しかし上記のように、日本の法医学教室の惨状ではとうてい無理だから、Aiセンターに組み入れた方がシステムとしては合理的に稼働します。
 例えば「法医学研究所」にCTを組み込むとします。するとマシンのメンテナンスなど、専門的知識をもったスタッフが必要になる。画像読影にしても高度な知識が必要とされる。これを、ある県には法医学者がひとりもいなくなるような危機に面している法医学教室に負担させるのはいくらなんでも無茶です。何しろ専門領域の解剖結果を主体とした鑑定書報告でさえ、半年、一年かかる業務なのですから、その上さらに専門外の画像診断という業務を載せたら、法医学者の暴動がおこりかねません。それならその部分を画像診断医に委託すればいい。ただし、その時は、画像診断医の協力にリスペクトしなくてはなりません。
 リスペクトの二本柱は、名称を看板に据えることと、費用拠出をきちんと行うことでしょう。そうなのです。Aiセンターという名称を用いることは、放射線科医に対しリスペクトしています、と社会に表明することでもあるのです。だからこそ群馬大Aiセンターは、千葉大が現在構築しようとしている基礎部門の「死因究明センター(仮称)」とほとんど同じシステムにAiセンターと名付けたわけですし、その結果そのことは広くメディアによって報じられました。
 今、幸い千葉大にはAiセンターが現存しています。ですから画像診断に係わる部分はAiセンターを併存させ、そこに業務委託をすればいい。岩瀬教授はしきりに「名称はどうだっていいじゃないですか」とおっしゃるので、すかさず私が「それならAiセンターだっていいじゃないですか」と切り返したところ、「現場の放射線科の担当医、山本先生がそう望むのであれば、そうしてもいいです」という、理性的なお返事を得ました。
 後日、山本先生から「死後画像診断はAiセンターで一元的に行うことになりました」という報告をいただきました。このことは現在、千葉大Ai センターのホームページにも記載されています。画像診断の本質は、撮影行為ではなく、診断行為です。機械や建物が主役ではなく、そこで働く人の英知が大切なのです。ですので「建物の名称がどうであろうとも」本質部分はAiセンターである、という線引きが、山本先生と岩瀬教授の合意によって明確になったわけです。
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