海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.05.26 2010:05:26:18:23:56

怒濤の一週間。ぜいぜい。

 結局、講評というものは、作品に対する批評になります。そして他者に対する批評は、自分の身に刃として返ってくるわけですから、直接バトルになるのが本質です。でもって作家のサポーターが大挙して会場を占拠し、大ブーイングをしたら選考結果がひっくり返ったり、それでまた大紛糾したり(笑)。絶対面白そうなんだけど。
 さしずめ将棋で言えば、「A級順位戦の一番長い日」みたいなものでしょう。
 以前も書いたように、文学賞受賞は時の運だけど候補にするのは版元の評価だと思っていますので、エントリーされればとりあえずすごく満足です。ただ、そのために何をすればいいかというと、結局自分では何もできないので、気楽にやろうと思います。賞をもらうためにできることは何もありません。その前に作品を可能な限り磨き上げることしか出来ず、それは賞をもらうためにするのではなく、読者に喜んで貰えるようにするものなので。
 私の執筆スタイルは、控えのゲラ(校閲の入らないゲラ)をもらい、校閲ゲラが戻るまで、白ゲラを繰り返し読むというものです。けれども古いタイプの編集者からは「不合理だからやめてほしい」などと言われたりする。でもそうすることでテキストが磨き上げられると思うので、そういうスタイルが自分のものと合わなかったとしても、編集者はそういう点には対応していただかないと困る。それが普通でない、と言われるのであれば、たぶん私は実は新しいタイプの物書きなのでしょう。
  そういえば本屋大賞が決まりましたが、冲方丁さんの『天地明察』でした。私はてっきり村上春樹さんの『1Q84』しかあり得ないと思っていたのでびっくりしました。いや、冲方さんの作品の程度が低い、というつもりは毛頭なく、ただ素直に去年の本屋さんを見ていると、『1Q84』が一番売りたい本なんだろうなと思えたので、エントリー10冊で最下位だったのには変な感じがしました。それを誰も言わないのも、変だなあと思います。こういう違和感を感じてしまうのも「書店員が一番売りたい本」というコピーが問題なんだと思うんですけど。一生懸命書いたんですから私の本だって、建前でいいから「一番売りたい」と本屋さんには思ってもらいたい(笑)。そしてそれは多くの作家が感じていることだと思います。
 そう、実はコピーを変えればこうした問題は簡単に解決します。「書店員が一番好きな本」にすればいいのです。だって内実は同じなんだもの。これなら私の本が選ばれなくても、「ああ、私は書店員さんには好かれていないんだなあ」と納得はできます。悲しいけど(笑)。でも「一番売りたい本」というコピーはどうしても納得ができないのです。
 文学賞も、構造は似ています。結局、審査員が「一番好きな本」を選んでいるわけです。つまり主観的人気投票なので、私は候補になれるだけで満足なのです。
 今、文学賞には地殻変動が起こっています。吉川英治新人賞の授賞式で、直木賞作家の伊集院静さんが、「本屋大賞を狙いたい」とスピーチしたのだとか。ちなみに吉川英治新人賞の受賞者は冲方丁さんで、本屋大賞とダブル受賞。しかも、吉川英治新人賞を取ったよりも、本屋大賞を取った方が、社会的インパクトが大きい。これは結局、文壇の審査員の人気投票か、一般書店員の人気投票か、そのどちらが信頼されているか、ということの社会からの回答に思えてならないのです。文学界も、変革が必要とされる時代になったのだと思います。

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