海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

『海堂ニュース』最新ネタ満載!

2010.04.16 2010:04:16:15:08:03

ナニワの春は燃えている、法医学会のAiは割れている。

 でも、グッドニュースもありました。3月10日、長崎市の西彼杵医師会に呼ばれて講演した時、法医学教室にCTが導入されると伺った後日談です。その後、長崎大学法医学教室に導入されるCTシステム構築が、放射線学教室に完全委託されたのです。
 4月11日、日本医学放射線学会の総会で、『Autopsy imagingの将来展望』という放射線学会と放射線技師会の合同企画シンポジウムが開催されました。四つの演題とひとつの追加発言に伴い活発な議論が行なわれました。
1『Aiワーキンググループから報告』中島康夫先生(聖マリアンナ・放射線)の発表では、Aiは画像診断である、という大前提が改めて確認され、放射線科医がAiセンター並びにAi情報センターを構築し、Aiに対して診断を行なっていくことを宣言しました。放射線学会と放射線技師会の総意として、彼らが一団となりAiに取り組んでいく、と宣言したのです。
2「法医学の立場から」長崎靖先生(兵庫県監察医務院・法医)の発表では、Aiが市中病院や大学で実施され、診断は放射線科医が行ない、兵庫県監察医務院と共有するという形になっているとのこと。やはり誠実な社会対応をすると、放射線科医に全例コンサルトは当然なのです。法医学の現場でも、心ある法医学者なら放射線科に全面委託を積極推進しています。
3「診療放射線技師にとって必要な撮像技術」井野賢司先生(東大・放射線)は、Ai撮像のために、技術的な問題が山積していることを示し、その解決を提示しました。
4「日本における死後画像による死因のスクリーニングをエビデンスに」塩谷清司先生(筑波メディカル・放射線)のご発表では、放射線科医の関与がなければ、Aiスクリーニングがエビデンスにならない、ということを明確に発表されました。
 ここで長崎大学医学部放射線学教室の上谷雅孝教授から追加発言がありました。今年度「死因究明専門医職業養成事業」で法医学教室に四億の予算がついたらしいのですが、中核は法医学教室にCTを導入することらしい。長崎大に導入されるCTに関しては、法医学教室の中園教授が、放射浅学教室に機械の導入、メンテナンス、診断など一切を完全委託し、上谷教授はこれを「Aiセンター」という名称で運営する予定だ、と発表されたのです。スタッフも放射線科につけてくれるという大盤振る舞いです。考えてみれば当然で、CT導入に法医学教室のスタッフをつけるのはナンセンス。このような形で法医学教室はAiに関して対応すべし、という模範を示したともいえます。この決定は「法医学会理事長方式」ともいうべき英断で、さすが法医学会のトップ、理事長として堂々たる御判断といえるでしょう。
 長崎大学法医学教室の中園教授は、法医学会理事長として素晴らしい姿勢を自ら率先して模範提示したわけです。法医学の現場で発生したAi画像でも、診断は専門家である放射線科医に全面委託しなければ診断クオリティは維持できない、というのは賢明な判断です。「千葉大法医方式」と「法医学会理事長方式」は診断システムの設計が根底から異なります。私の目には「千葉大法医方式」は冤罪発生や画像所見見落としの可能性を常に孕む、危険で不安定なシステムに映ります。一方「法医学会理事長方式」は、社会に対し責任ある死因診断を適切に供給できる素晴らしいシステムです。
「千葉大法医方式」が、同じ組織に併設されている放射線科主導の「Aiセンター」にAi診断を「全面診断委託」しないのはなぜでしょう? その問いに対する回答はまだ表明されておりません。メディア取材の多い施設ですから、メディアのみなさん、是非質問してみてください。どうせ、捜査情報は公開できない、などという言い訳をするに決まっていますが、その言葉の元に、数多くの冤罪が発生したことを、忘れてはなりません。もしも法医学者が本当に市民社会のための死因究明制度を構築したいのであれば、死因情報の全面公開、という提案を同時にしなければ、問題解決にはなりません。そうすると診断力のある人に全例コンサルトする、ということは市民に対するもっとも誠実な対応だと思いますが、みなさんどうお考えでしょうか。
「法医学会理事長方式」は、CT導入、メンテナンス、診断すべてを放射線医学教室に委託するかわりにスタッフや読影料なども支払うという骨格で、施設の名称は「Aiセンター」となるということが、放射線学会のシンポジウムで公言されました。
 ちなみに「大阪法医学方式」はこのままいくと「千葉大法医方式」の踏襲になってしまうでしょう。今回のこの国家予算で新たにCTを導入しようとしている7つの法医学教室は、果たしてどちらの方式を選択するのでしょうか。

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