海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.04.16 2010:04:16:15:08:03

ナニワの春は燃えている、法医学会のAiは割れている。

 大阪では大阪府監察医務院の所長さんに取材させていただきました。やはり自信ある組織や人は堂々と取材を受けてくれるもので、実は大阪地検さんも取材済み。検疫所も取材しています。結構マジに書いています、ナニワモンスター@週刊新潮好評連載中。取材拒否は、透明性が低い組織の証拠、透明性が低いというのは、裏で何かを隠していると断言できますね。でなければ、取材は宣伝につながるからふつうウエルカムのはず。この後もいくつか施設にオファーを出そうか思っています(笑)。
 大阪府監察医務院では法医学者の先生とディスカッションさせてもらいました。法医学者の窮状を切々と語られて、まったくその部分には同意しました。法医には人が必要です。
 ただ残念ながらAi(死後画像診断)に関しては意見は一致しませんでした。結論から言うと、「Aiも、まずは我々法医学者がやります」ということらしい。「自分たちがわからない画像はコンサルトしますから」というお答えでした。一見、良心的で合理的な対応に見えますね。ですがこれには大変な問題があります。それは「わからない画像をコンサルトする」ということは、「わかったと思う画像はコンサルトせずに済ませてしまう」ということです。そのファースト・チェックで「わかったと思いこんでしまった」ら、チェックをすり抜けてしまう。しかも、普段画像診断に慣れない法医学者の先生がするのですから、レベルの低いチェックになり、Aiが正しく診断されないおそれもある。法医学者には「CTでは出血がわからない」などとメディアで公言し訂正しようともしない、画像診断医からみれば噴飯物の方も混在しているわけで、そうした方たちの画像チェックは、困ったものになる。一方専門家の放射線科医は、Aiはファースト・チェックが難しいと言っているわけで。その違いは、Aiでの社会貢献に対する責任感の差なのでしょう。ちょうど、こんな風に譬えれば理解し易いでしょうか。
 ここに一台のF1カー(Ai)がある。熟練したタクシードライバー(放射線科医)は、この車の運転はとても難しく、運転するためには新たな技術の習得が必要だ、と感じています。また車の整備などの重要性もよく理解している。一方、ペーパードライバー(法医学者)は、「ま、俺たちで何とかなるよ」と豪語しています。現実は、F1カーの運転には、途方もない技量が必要ですが、何しろ彼らはペーパードライバーの上、運転に責任を持つつもりがないので、そんなことも楽々と宣言できてしまうのです。でも、これって不誠実だと思いませんか。
 法医学会に蔓延しつつある「死後画像導入システム」の基本骨格は、「千葉大法医学教室」が構築したもので、検査をしても画像診断レポートも作成せずに済ませています。確かに法医学者にとっては都合のいい、ラクチンでしかも研究費もざくざく入ってくる打ち出の小槌のような「システム」です。「千葉大法医方式」は実に摩訶不思議で、千葉大には放射線科が主導する「千葉大Aiセンター」が併存しており、そこにルーティンでコンサルトできるシステムがあるのに、なぜかコンサルトは恣意的で全例のコンサルトシステムになっていません。千葉大法医学教室で実施されるAiは、診断保証がないのです。実際、先日の医師会のAi 検討会での発表で、千葉大法医学教室の先生がAi画像を提示し「この画像では骨折はわかりませんが」と述べたところ、画像診断専門医から「画像診断医なら、簡単に骨折がわかりますよ」と指摘されていました。つまり『千葉大法医学教室の死後画像』では少なくとも一例、骨折の見落としがあったわけです。これはつまり、法医学教室主導のAi画像診断に見落としがあっても、それが確認されず放置されてしまう、ということを明らかにしたわけです。でも仕方がないですね。法医学は外部監査なき世界、誤診や見落としがあっても市民は泣き寝入りするしかない。Aiを放射線科医に全面委託すれば防げるのに、なぜやらないのか。彼らは本当に市民社会のための死因究明制度を作ろうとしているのでしょうか。私の目には「千葉大法医方式」の骨格は、市民社会のためでなく、法医学者ならびに捜査関係者のためのシステムに見えてしまう。なぜならそこには、外部監査を忌避したがる気持ち、すなわち冤罪や診断ミスを隠蔽する萌芽が見て取れるからです。
 大阪にはすでに四つの法医学教室にCTが導入されているそうです。大阪に蔓延しつつある「大阪法医学方式」は、「撮影すれども診断せず」という画像が存在する「千葉大法医方式」と同じです。患者に対し誠実に対応している医療現場では、まず考えられないことです。

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