海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.02.16 2010:02:16:17:44:20

第4回 医療・医学における死亡時画像診断(Ai)活用に関する検討委員会

 スライドでは「CTはどのように使われるべきか?」で「スクリーニングに使うなら、捜査機関と連携した上で、以下のような事例では解剖や薬物検査などさらなる法医学的検索がなされるべきである」とあり、「CTで死因が不明」「CTで外因が疑われる」「CTの結果に関わらず、死亡までの経緯が不明」の三つの場合とあり、→「7割以上が解剖されなければならないことになる」と結論づけています。つまりCTを実施すれば解剖が増える、だから解剖医を増やせ、と言っているのです。これでは法医学領域への国費流入を促しているだけです。

 ですが、よく考えてみてください。CTをやれば7割以上解剖しなくてはならないのであれば、CTをしなければもっと解剖しなくてはならないはず。CTによって、解剖をしなくてもよいという症例があることも示しているのです。とすると法医学者が世の中に訴えなければならないことは、

1 解剖体制の充実

2 画像診断の専門家への委託体制の確立

の 2点です。2の画像診断を法医学者自身が行うことは、本分の1すら充分できないために人員増員を求めているのですから不可能です。だから2は医療現場に協力要請するしかなく、その際、自分たちの財布からきちんと費用を払わなくてはなりません。医療界は、法医学者が警察庁主催の検死検討会でAiの費用負担に関してどのように主張するか注目しています。その姿勢次第では、医療現場における協力体制の構築に多大な影響を与えることでしょう。これについては、また別の機会に。

 スライドでは「死後画像診断普及のための費用負担は誰か? 厚生労働省? 警察庁? 法務省? 自治体? 遺族? 病院? 司法検視? 行政検視?」「放射線科医は死因診断で責任を取るのか?」という問いかけもありました。費用の方は答えは簡単、「捜査協力なら警察庁が医療現場に支払う」のが当然。現に司法解剖では出来ている仕組みです。その際「国庫による予算措置は、司法検視分(警察が犯罪性を疑い、司法解剖に回す事例)に限定された(警察法施行令による)」というしみったれを拡大したら、医療現場が崩壊します。チェックして問題がなかったらお金は払わないよ、といっているわけで、「具合が悪くて心配だったから病院で検査してもらったら異常が見つからなかったので、検査費用は支払わない」と言うに等しく、これでは医療経済が成り立ちません。これがどんなに非常識な設定かは、司法解剖に当てはめてみれば、よくわかります。これは、岩瀬教授の発表で、司法解剖では死因が確定しなかった四例中一例は費用を払わないぞ、と言っているのに等しいのです。

 ね、ずいぶんな話だということがよくわかるでしょう?

 専門外の人がシステムを作ると、こうした問題が多々起こります。さらに問題なのは、警察庁はCTの撮像費用は拠出しますが、診断費用は拠出しない、という問題が生じます。これでは医療が破壊されますが、その根本を警察は理解してもらっていません。これも制度設計の際、必要な専門家を議論に交えないために起こるシステムエラーでしょう。

 警察庁が検視問題検討委員会を立ち上げ、死亡時画像診断のことも討議するのであれば、Aiの実施経験のある専門家である放射線科医を複数名招聘することをお勧めします。それこそがシステムを適正に運営できる肝要だからです。

 死後画像診断を適切に判断できる人材が警察の検死検討会には不在です。なのでこの検討会は死亡時画像について検討しないのだろうと推測します。もし死亡時画像について検討する会であるならば、その時は「死亡時画像を行うシステムを作り、費用負担と読影責任を医療現場に押しつける」ことを目指して立ち上げられた検討会とも思えます。

 どちらにしても、警察庁が立ち上げた検死問題検討会は多大な問題をはらんでいるので、今後の動向を注視したいと思います。

 そんな中、石川県で興味深いシステムが立ち上がることになりました。警察関連のAiのシステムです。Aiに関わる警察関連については、またいずれ。

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