海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.02.16 2010:02:16:17:44:20

第4回 医療・医学における死亡時画像診断(Ai)活用に関する検討委員会

 さて、岩瀬教授の発表です。

「解剖前CT検査での解剖・CTの比較」という表は、データ的に一番重要です。平成18年1月から平成20年5月までの司法解剖実施例約437例で「解剖前CT検査での解剖・CTの比較」ですが、437例中司法解剖で死因が確定されたのが331例、75.7%。そしてCTでは125例、28.6%とあります。司法解剖での死因確定率が75%でCTだと30%、という私が言っている数値と同じです。

 注目点は司法解剖の死因確定が75%という事実が、現役法医学者から公式の場で提示された点です。つまり司法解剖しても四人中三人しか死因が確定できないのです。この数値はきわめて信頼が高い。なぜなら岩瀬教授は司法解剖の専門家だから。

 けれどもCTの死因確定率が28.6%という数値は、信頼性が低い。なぜなら岩瀬教授は画像診断の専門家ではないからです。千葉大法医学教室の画像診断は千葉大Aiセンターの山本先生に委託しているのですが、山本先生は437例もの画像のうち、診断依頼を受けたものはほとんどなく、特に平成19年以降はほとんど診断していないそうです(隣席なので、即座に本人に確認しました)。また、こうした画像診断の総括データを呈示する際は撮像機械の機種、スペック、そして読影者の情報を記載しなければ、学術的信頼性のないデータになってしまうことは、画像診断の世界では常識です。つまりこのスライドは一見学術のスライドに見えて、実はまったく学術の体をなしていないのです。

 さらに、質疑応答で岩瀬教授も明言していましたが、この発表の死後画像診断に診断レポートが存在していない点は大問題です。現時点では「放射線専門医」が読影しておらず、また読影結果も存在しないようなものです。つまりスライドで呈示された死後CTの診断率なる数値は、再確認できない。優れた放射線科医が読影すれば死因確定率は上昇する可能性もある。これが学術論文ならばおそらく落第、画像診断部分に関しては学術的価値はゼロである、と私が査読者なら判断します。だって、診断レポートがないので、データの確認が取れないのですから。

 法医学の分野では、これがスタンダードなのかもしれません。でもそれは、グローバルな医学研究のスタンダードとはとうてい言えません。

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