海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.02.19 2009:02:19:17:32:51

私に不利な証拠として

 ただし、荒れたのは理事会の運営だけで、Ai学会の学術総会は演題12題、特別講演一題、全国津々浦々からの発表で、Aiの広がりを確実に感じさせてくれました。会場でも実に前向きで活発な討論が行なわれました。この様子は「メディカルトリビューン」などの医療系雑誌などで報じられると思いますので、関心のあるかたはそちらの方も是非どうぞ。昨今の情勢を鑑みると、Aiセンターもあちこちで設立ラッシュになりそうです。そう、学術集会がきちんと行なわれていれば、学会は立派な学会として認識されるのではないでしょうか。
 その上、放射線学会専門医会の第一回WG(ワーキンググループ)が午前中に開催され、いよいよAiが本格導入の骨格が見えてきました。法医学会や病理学会がAiの検討をするならば、画像診断の専門家である放射線科医に相談しなければ、専門の学術領域に対するリスペクトを失することになることはもはや一目瞭然。放射線学会専門医会に対し、果たして解剖関連学会の上層部がどのような対応を見せるのかは、今後注目すべき点でしょう。

 さて、最後に文壇絡みの「私に不利な証拠として」。
 早川書房「ミステリマガジン」3月号の書評に、高名な書評家であらせられます池上冬樹先生が、私の言説について言及しております。これが少々、困った文章になっているのです。
 以下、その書評の冒頭を引用しましょう。ちなみに、私の作品に対する書評ではありません。

"書評家のみなさんにお願いがあるんです......と、ある雑誌の仕事で昨年、『チーム・バチスタの栄光』でおなじみの海堂尊さんにインタヴューしたときにいわれたことがある。「私の小説はミステリとしてではなく医療小説として読んでほしい」と。
いうまでもなく海堂さんは「『このミステリーがすごい!』大賞」出身者である。だからどうしても僕らはミステリとして読んでしまうことになるのだが、一方で、小説には医療小説という分野もあるし、それにもっと光をあててほしいというのである。"

 一見すると、いかにも私が言いそうな内容です。でも実はこれは巧妙にポイントをずらされたことにより、私の主張がまったく正反対になってしまっているのです。池上先生の文章によれば、「私の小説はミステリーではなく医療小説として読んでくれ」と私が言っていることになっている。この文章では、私は自分の作品を「ミステリーとしては評価しないでほしい」と言っているように読めます。だけど事実は違います。私は、「私の作品もミステリーとしてきちんと評価してほしい」と言ったのです。正反対ですよね。
 私が池上氏に語った論旨は以下のようなものです。
「私はミステリーを書いているつもりだが、なかなか評価されない。その一端に、書評界の医療に対する理解度の低さがあるのではないか。ミステリーは一般常識が土台になって、そこからの落差によって描かれる文学だと思う。だから文壇において、医療に対する理解が進めば、きっと私の小説もミステリーと認識されるのではなかろうか」
 つまり医療界についての文壇の理解不足が、私の作品がミステリーとしてなかなか理解してもらえない要素のひとつなのではないか、と言ったのです。ちなみにこのインタビューが行なわれたのは昨年5月頃、ちょうど『ジーン・ワルツ』を出版した直後で、私は実は『ジーン・ワルツ』を医療ミステリーとしても書いたつもりだったのですが、それがミステリーとして成立するには、昨今の産婦人科医療を取り巻く現状を理解していただくことが最低限のことなので、そうした意味も含め、申し上げたのです。
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