海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.01.31 2008:01:31:16:46:44

映画『チームバチスタの栄光』について

 先日、一般試写が行われ、雪中、たくさんの方々がお見えになりました。会場では立ち見もいっぱいで、出演者の人たち、それから主題歌を歌って下さるエグザイルの方々が揃いました。あ、あと中村監督も(笑)。私も例によって場違いながら、一番端っこにいました。もっと緊張するかな、と思ったのですが、ライトの関係で舞台からは客席がよく見えなかったので、あがらずに済みました。挨拶の中でもいいましたが、雪は吉兆で、『チームバチスタの栄光』の授賞式の日が大雪でした。ですからこの映画は、少なくとも原作くらいのヒットにはなるでしょう。あるいは越えるかもしれません。ちなみに『チームバチスタの栄光』は、おかげさまで先日文庫も合わせて250万部を突破いたしました。読者の皆さまに御礼申し上げます。
 さてお約束通り、原作者としてこの映画について少しだけ語ってみたいと思います。

 一号試写で映画を見てから、胸中にさまざまな想いが去来しました。その中で一番の中心は、「何だろう、これ」という戸惑いでした。で、悩みに悩んで一週間。ようやくたどりついた結論は、「この映画は、他のどんな映画とも似ていない映画だ」ということでした。つまりノンジャンル。
 本当に、何なんだろう、これ。
 不満足、では全然ありません。とても嬉しいくらいです。ただ、映画について語ろうとすると、どうにも適切な言葉が出てこない。ここはプロの評論家の方たちが、「手垢のつかない」言葉で新しい映画を語って下さると大変ありがたいと思います。この映画はおそらく、観た人の鼎の軽重を問う映画になるでしょう。かつて坂本龍馬が西郷隆盛を評して曰く、「大きく叩けば大きく響き、小さく叩けば小さく響く」。そんな映画です。プロの評論家の方々の反応が楽しみです。一般の方たちは、ただ、楽しんでいただけると幸いです。

 さて、これでは物書きとして失格ですから、それなりに何とか語ってみたいと思います。ただ、私には評論の素養がありませんので、ここは少々趣向を変えて、この映画の鑑賞の仕方を論じてみたいと思います。
 この映画は極上のエンターテインメントです。それは爆笑に次ぐ大爆笑、という類のものではなく、好奇心を充足させ、深くモノを考えさせられるという意味での、大人のエンターテインメントです。
 ここでは、私の作品を読んで下さっている人たちであるという前提でお話します。実は『チームバチスタの栄光』は、どうやら呪縛力のとても強い作品らしいのです。選評の中で最終選考委員の茶木則夫さんが語っておられるように、「一度読んだら忘れられない、ずば抜けた印象がこの作品にはある」のだそうです。実はそれは諸刃の剣で、その呪縛があまりにも強すぎるために、私の二作目『ナイチンゲールの沈黙』はその反動で不当に低い評価を受けるハメになりました。さまざまなご意見を総合すると、『ナイチンゲール』は「面白いが、物語のテイストが全然違うし、バチスタには遠く及ばない」というのが大半の印象のようです。違う物語なのですから、テイストが全く違っても差し支えはないはず。そう思えないのは書き方が未熟だからだ、という意見もあります。しかしナイチンゲールから読み始めた人は、楽しんでいただいているようです。『ナイチンゲール』は、実は新しい物語だと思っています。これまでの何かに似ているかという、比較形での評論ができないのです。だからある程度の不評は覚悟の上でした。だけど私の目論見の、たったひとつの誤算は、読者のみなさんが前提としてバチスタの世界をあまりにも強く焼き付けてしまっている、ということを全く考えていなかったのです。ふつう、作品を読んで三日もすれば、その世界は薄れてしまう。全く違う話だからだいじょうぶだろう、と考えて違うテイストの話を書いたわけです。でも、書籍の『チームバチスタの栄光』は、強力な呪縛力がありすぎた、というわけです。
 おそらく映画でも、同様の現象が起こる可能性があります。けれども同時にこの映画は、見終わった時いつまでも胸に残る何かがあります。ですからこの映画の鑑賞法は、原作をきれいさっぱり忘れて見ることが正しい。この映画の鑑賞法のコツは次のようなものです。まあ、ジェットコースターの乗り方の指南、というあたりでしょうか。
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