海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.01.31 2008:01:31:16:46:44

映画『チームバチスタの栄光』について

 医師の増員を、医療費の増額を、医療現場は求めています。通常の医療を行うためには、これは必須の手当です。そしておそらく、市民もそれを望むことでしょう。となると当面のわかりやすい敵は、医療費を抑制している財務省の人々、あたりでしょうか(笑)。
 市民社会の敵は、みんなではっきり認識しましょう。
 官僚は「医療費亡国論」という論陣を1983年に打ち、その基本方針を四半世紀経った2008年の現在も堅持しています。私は彼らに言いたい。人々が病んでいるなら、医療費で亡国したっていいじゃないか、と。市民ひとりひとりが幸せに暮らせるように、そのために我々は税金を収めているのではないか、と。
 人々を救う医師が、多少ゆとりのある生活を送れるように制度設計するのは、当たり前の社会の義務ではないでしょうか。その費用は、賄賂にまみれた官僚のトップ事務次官に払っていた給与よりは、社会的にははるかに妥当な支払いのはずです。官僚は、汚職まみれの自らの組織を自浄しようとしないくせに、医療事故調査委員会の設置などという、医療現場の自浄作用を強制しようとしている。モラルの高い集団、医療が、モラルの低い集団=官僚組織から指導を受けるというエキセントリックな国、それが現在の日本のいびつな姿なのです。そしてメディアはその言葉を無批判に垂れ流すことで、その傾向を助長している。
 たとえば、 朝日新聞は1月28日の社説で、「医療の平等を守り抜く知恵を」なる中で、「医師は毎年四千人ずつ増えているが、人口千人あたりの医師は二人で、このままいくと先進国で最低になる。医師の要請には10年かかる。早く取りかからなければならない」といいながら、それに対しては何の保証もせず、「医師は収入が高く、社会的な地位も高い。たとえ公立病院に勤務していなくても、公的な職場だ。自由に任せていては、医師の偏在は解消できない」として、「診療科ごとの養成に大枠を設ける。医師になってからは一定期間、医師の少ない地域や病院で働くことを義務づける」ということを、「希望社会への提言」として上げています。
 だが、メディアはかつて、新医師臨床制度が施行されたときに、医師が自由な意志で研修することを素晴らしいことだ、と賛美していました。新医師臨床制度を容認したのであれば、上の論調は無責任です。上記のような調整機能を果たしていたのが、メディアが悪者視していたかつての大学病院の医局でした。その医局制度を古めかしい組織だと攻撃していたのが、かつてのメディア報道の基調だったはず。このようにメディアは自己検証をせずに無責任な発言をし続けている。
 今の医療の大問題のひとつは地域偏在です。その傾向を極度に推進したのは、官僚が推進した、新医師臨床研修制度なのです。
 1月30日付け朝日新聞朝刊一面では、「開業医再診料下げ断念、医師会の反発を受け」と報じている。まるで、開業医を悪者扱いです。勤務医が激務で低い賃金だから、儲けている開業医から回すべきだ、というこの考え方は、かつて大学医局が悪い、とステレオタイプで断じたメディアと本質は何も変わらない。解決策は簡単で、開業医への支払いはそのままで、勤務医への支払い増を行うべきです。勤務医の初診料を開業医なみに引き上がればいいのです。医療費抑制という大前提に疑問を呈さないから、このような議論になってしまう。だけどこんなことをやっていたら、今度は、開業医が医療現場を逃げ出すでしょう。逃げ出したくなくても、良心的な医療をしていると儲からないので、潰れてしまい、結果的に退場することになります。医療を内部分裂させ、弱者にして虐めるのは、もうヤメにしませんか? その結果、市民の皆さんが困ることになる、ということに、まだ気がつかないのですか。
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