厚生労働省は、勤務医不足対策の必要財源を1500億円と試算したそうです。どうして、役人の天下り法人のバカ高い費用を削りそれに充てるという算段ができないのでしょう。どうして医療費の内部でやりとりしなければならないのでしょう。お年寄りの人口が増え、医療費は自然増して当たり前。それなのになぜ、官僚は医療費の抑制に走っている自分たちの根本政策が悪いと気がつかないのか。そして優秀であるはずのメディアがなぜ、こんな簡単なことを指摘できないのか。
医療を不当にいじめ続け、官僚たちの不適切な医療行政を座視し続ければ、結局そのツケは市民のみなさんに戻ってきます。たとえば地方医療が崩壊したのは、まさに無責任な医療行政の、中途半端な介入のせいです。今や事態は絶望的にすら見える。
だが、それでもこの映画には希望がある。市民のみなさんが、医療に対しどう答えて欲しいのか、医療現場からの願いがこめられている。そしてその希望の象徴が、主役の竹内結子さんの笑顔なのです。
私はこの映画のシナリオに指一本、触れていません。私が一カ所だけシナリオ変更を要求した部分は、今、市民の人たちの目に触れにくいところで、「医療事故調査委員会」なる新たなる組織がきわめていい加減に作られてしまいそうなのですが、このままだとその流れを助長してしまいそうだ、と危惧したからです。この「医療事故調査委員会」なるものは、もしも今のまま成立したら、これまで以上に医療現場に混乱をもたらし、医療崩壊に拍車をかけるものです。ですから危機感がありました。私の要請は、現場からの直接的な反抗を示す場面をワンショット、あるいはひとつのセリフを追加してほしい、というものでした。クリエーターとしての要請ではなく、一医師としての要請でした。その変更要請はあいにく受け容れてもらえませんでしたが、かわりに私の依頼はラストシーンに隠喩として組み込まれています。直接的な願いは、部分的に叶わなかったわけですが、でもそれは全体からみれば、些末的なことです。
中村監督、キャストの皆さん。それから舞台裏を支えて下さった東宝さん、クロスメディアさん、宝島社および宝島ワンダーネットのみなさん。そしてこの映画に係わって下さったすべての方々。
素晴らしい映画を作って下さって、本当にありがとうございました。
2008.01.31(海堂 尊)