海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.03.23 2008:03:23:16:50:03

『エーアイ』の社会的進展度についての中間報告

 おかげさまで、映画『チームバチスタの栄光』は観覧者が百万人を突破し、ロングランが決定しました。春休み、お時間がある方は是非ご覧になってみて下さい。
 怒濤のような取材や番組出演が重なり、1月-3月は(今現在も進行中)生まれて初めてと思えるくらいの多忙さでした。
 映画の宣伝もありましたが、新刊の『医学のたまご』の取材、そして何より、『死因不明社会』が訴えた死亡時医学検索の現状もありました。
 そんな中、『エーアイ』に関する市民の意識が大きく変わり、それに引きずられるようにして、ついに『エーアイ』が官僚の意識にもある、という証拠が上がり始めています。

 これまで『エーアイ』という言葉は、文化面で私の書籍が取り上げられる時以外は、ほとんど使われていませんでした。この傾向はことに、報道関係に多く見受けられました。彼らは『死亡時画像』とか『死体CT』などという言葉を用いていました。そして、たいがい多くの報道が、「画像診断も有意義だが、解剖をしなくてはならない」という論調で終わっていました。
 学会上層部と厚生労働省の官僚たちはいまだに、「解剖を主体にした制度作り」に固執し続けています。これは今の医療界の現状では残念ながら実現不可能です。それを口先だけでできるがごとく偽装しようとしているのが、現在厚生労働省が画策している『医療事故調査委員会』なる制度なのです。彼らはいまだに、解剖全症例に対する費用拠出を行おうとしていません。それなのに、解剖を主体とした死因究明制度なる言葉を使用しています。彼らの言い分は、医療事故に関わった症例の解剖費用だけは拠出する、というものです。
 こんな制度が動くと思いますか? これでは医療現場ではいよいよ解剖が枯渇するでしょう。なぜなら、遺族に解剖を申し出た途端、遺族が「この死亡は医療事故だったのか?」と考えるようになってしまうのは当然だからです。そうなったら、医療側は、解剖をしようとはしなくなるでしょう。特に、医療事故と考えていなければいっそう、そうなります。ですが、医療事故の中には、発生当時医療従事者は医療事故だとは全く考えなかった症例で、後に遺族が訴えてきたという症例もあるのです。
 厚生労働省が、「医療事故調査委員会」の成立を急ぐ理由はよくわかりません。厚生労働省は、「医療事故調査委員会」を廃止される社会保険庁の人員の受け皿にしたがっている、という説が医療界では定説になりつつあるようですが、だとしたらとんでもない話です。年金を集めるという事務的な仕事すらきちんと行えず、社会不安を撒き散らしている人たちに、こんなデリケートかつ重要な仕事を任せられるわけがないのです。
 厚生労働省はその前身の「中立的第三者機関における医療関連死検討モデル事業」を二年前に立ち上げ、現在も継続中ですが、これが解剖を主体に置いているため、現在は半年以上、症例がなく停止状態にあるのだそうです。モデルでさえ運用が回らないものを、どうしてそんなにあわてて作ろうとしているのでしょう。
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