海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.01.18 2008:01:18:16:27:20

バチスタ映画の背景として、知っておいてほしいこと。

 一月初旬のある日、撮影所で一号試写というものを拝見しました。映画についての感想は、次回書きます。ただ、大変面白かったこと、そして、どう語ればいいのか、悩ましい映画になったということはいえます。それは、これまでの「まるで○○のような面白さ」という形容詞の中に既存の作品が入らない、そんな面白さなのです。試写のあと中村監督と対談もさせていただきました。これは月末の週刊朝日で掲載予定です。お楽しみに。

 映画を見る前に、皆さんに知っておいて欲しい前提を書きます。それは今の医療の現状です。その現状を知っていれば、この映画のすさまじさと凄さが理解できます。ですが現状を知らずにいると、単に「ありえなーい」と思われてしまうかもしれません。ですが、物語のリアルさの認知は現実からスタートしなければ認識としてあやまりです。今の医療現場の現状に対する理解が乏しいと、間違った認識をされてしまうかもしれない。それでも説得する力を持つのが芸術作品だ、という意見もあるでしょう。ですが正確な理解には、前提となる社会常識の有無が理解に大きく係わるということもまた事実でしょう。
 言い換えれば今の社会は、医療に対して愛が少ない社会に思えます。だから、みんな医療現場の悲惨さに無関心でいられるのです。特にメディア世界や文壇の医療に対する愛の欠落、つまり関心の低さには目を覆うものがあります。そして、みんなのためにどんなに頑張っても愛されない医療が自壊していく、それが今の医療崩壊の実相なのでしょう。
 医療行政を司る官僚がそうなのは仕方ありません。なにしろ彼らは、法律を主として生きる人種であり、法とは非情なものだからです。それはC型肝炎訴訟における医療行政の振る舞いを見れば一目瞭然でしょう。あれを医療と誤解したら困るのです。医療行政と医療は全く別物です。
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