海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.01.18 2008:01:18:16:27:20

バチスタ映画の背景として、知っておいてほしいこと。

 さて、ここから先は医師向けに書いたものですので、読み流していただいても結構です。
 これまで「死因不明」(解剖未施行例の死亡診断)については、「心不全」と記載するのが通例でしたが、これからはそうした行為が、「死因偽装」と思われてしまう社会になります。偽装をすると社会からノーをつきつけられます。名門吉兆が会社更生法を申請したのも、同じ過ちからです。このままいけば医療全体が社会からノーをつきつけられ、会社更生法を届けなければならないハメになりますが、そうならないために医療人としての良心に一瞬目をつむり、心を鬼にして死亡診断書に「死因不明」と記載しましょう。厚生労働省でも警察庁でも結構ですから、どこかが病理解剖に費用拠出を決定するまでは病理解剖を業務拒否しましょう。
 そうしないと病理解剖費は医療現場からの持ち出しにされたままになってしまいます。これは行ってはなりません。医療費は生きた人のために使うべきです。ただでさえ、医療費削減が厳しいのですから、そこから死亡時医学検索に費用を拠出するなんて、とんでもない話です。
 これが日本の医療費の有効利用のためのトリアージです。病理解剖費用を病院持ち出しでやるくらいなら、その費用は救急医療に拠出しましょう、ということです。
 ただしこうしたことを続けていけば、「医学」の土台が崩れ、結局「医療」は崩壊します。それこそが現在の官僚が誘導しようとしている社会の近未来の姿なのです。彼ら官僚は医療と、そして医療の土台である医学をあまりにも軽視しすぎています。医療費は削減されていますが、日本にお金がないわけではありません。社会保険庁の怠慢で生じた膨大な事務業務に対する費用(年金安心便)に対する費用拠出は、あっという間に決定されました。あれは、自分たちのミスのリカバリー費用を国民のためと言って堂々と拠出する、焼け太り行為、盗人に追い銭の行為です。つまり官僚制度だけは不敗のシステムなのです。そしてこの問題の戦犯は、現在の大臣ではなく、そうした行政を実施した当時の事務次官、及び彼らをサポートした官僚周辺にいる一部の医学者たちなのです。しかし、彼らが責任を取ることはありません。彼らの行った行為は、一般市民から見るととても信じられないことなのですが、どうやら法律にしっかりと守られているようなのです。
 医療現場でよりよい医療をめざすために行われている病理解剖に長年ずっと費用拠出されず、新しく普遍的な検索法になることを、一般市民でさえやすやすと理解してしまう「エーアイ(死体の画像診断)」にも費用を払おうとしない医療行政。これから「死因偽装社会」の片棒を担がされるのを防止するために、医師は病理解剖、およびエーアイに、医療費以外からの費用拠出が決定されるまでは、病理解剖業務停止で対応するのが、医療人としての矜持と良心でしょう。
 こうなると今、厚生労働省が画策している医療事故調査委員会の枠組みなんて、一瞬で崩壊します。せいぜい厚生労働省と仲のいい学会上層部の人たちと、おままごとのような制度を作るのが関の山です。
 これが、土台工事を疎かにした豪華マンション、医療事故調査委員会の実相です。医療従事者のみなさん、そして一般市民のみなさん、こんなマンションを身銭を切って購入したいですか?
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