海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2008.01.31 2008:01:31:16:46:44

映画『チームバチスタの栄光』について

 ○ 映画『チームバチスタの栄光』の鑑賞法
 あなたは東城大学医学部付属病院に潜入取材しています。覗き見趣味でも、ジャーナリストとしての使命でも、自分の母親が今度入院するのでどんな病院か調べに来た一般人でも構いません。通りかかるとそこには、世界的に有名なチームバチスタという心臓外科チームがあります。興味をひかれたあなたは、チームをこっそり覗き見できる立場にある。その時、あなたの全面的な味方が、ガイド役の田口公子役=竹内結子さんです。できるだけ彼女に素直に寄り添ってみて下さい。すると必ず、映画の最後に、竹内さんと同じ気持ちになれるでしょう。で、阿部寛さん演ずる白鳥は何かといえば、これは官僚そのものです。そこから感じる日常生活との違和感。すっとんきょうさと無神経さ、そしてアンバランスでシャープな知性。これは現在の官僚の姿ありのままです。是非、生身で感じて下さい。
 肝心要のチームバチスタは、というと、バチスタ手術の日本における創始者であり世界的権威、須磨先生の指導の下、それぞれその分野でのトップクラスのドクターの下で修行を積んだ面々です。手術助手から麻酔医、看護師、技師に至るまで、すべての人にそれぞれのアドバイザーとして現場の医療従事者がついています。このチームに君臨するのは桐生恭一、つまり吉川晃司さんです。この人が優れた外科医であることは須磨先生のお墨付き。非のうちどころのない素晴らしいチームのはずなのに、何かおかしな気配を感じる。竹内さん演ずる田口と一緒になって、その謎を解いていってほしいのです。
 綺羅星のごとくのスターの方々が全力を上げて作り上げて下さった映画です。素晴らしい演技により、これまでに見たこともない映画になりました。ですが映画の主役は、竹内結子さんでも、阿部寛さんでも、吉川晃司さんでもありません。
 この映画の主役は、「医療」そのものです。医療が初めて生身のすっぴんで、スクリーン上に現れた。そういう映画です。
 これまでも医療映画やドラマはたくさんありました。また、ドキュメンタリー番組などでは直接の医療現場画面を見ることができます。しかし、それは生身の医療現場の画像ではなかったのです。
 ドラマでは当然劇的さを求めて、作り込まれます。役者の人たちも、医師の心になりきることが難しい部分があります。だからリアルさに難がある。この映画は、チームバチスタの面々ひとりひとりに、現場最前線で苦労されている医療現場のスタッフがアドバイザーとしてついて下さっています。その担当医師の指導を受けるうちに、彼ら自身が完全に医師に同化しまったのです。演技ではなく、心から。
 つまり生身の医師が医師の姿のままスクリーンに現れた、初めての映画なのです。
 医療ドキュメンタリーがあるではないか、とおっしゃるかもしれません。ですがドキュメンタリーも、実はリアルではありません。カメラを向けられた瞬間、医師が演技をしてしまうのです。そうなると医師は三文役者にすぎません。(自戒を込めて・笑)。ふだんのままの演技なんて、とうていできません。みなさんもドキュメンタリーで救急現場で医師や看護師が怒号をあげている場面を見たことがあるでしょう。あれは、取材を受けている医師たちの過剰な演技です。実際の修羅場は、実は静かなものなのです。
 この映画は、原作に「忠実な」映画ではありません。原作に「誠実な」映画です。そして、原作が多面体である以上、すべての面に誠実であり続けることはできません。この映画が誠実たらんとして向き合うために選択した物語の要素、それは「医療」だったのです。
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