そんな当てこすりみたいなことをしている間にも、日本の死因究明制度はどんどん遅滞していきます。解剖率は現在も急落中です。
結局、病理学会と法医学会の偉い人たちは、日本社会をよりよくしたい、という気持ちは薄く、自分たちの領域だけが少しでも潤えばそれでいいと考えていることが、図らずもシンポジウム企画から丸見えになってしまいました。
この会に参加したAi学会の理事長の報告によれば、大阪大の法医学の先生が講演の中で、札幌医大時代の凍死のAi画像情報を提示したのだそうですが、札幌医大Aiセンターで画像診断している先生のお名前のクレジットを載せていなかったそうです。もしもそれが本当なら、そういう態度は、実施者に対するリスペクトを欠き、その上にあたかも法医学者がAiを仕切れるかのような間違ったイメージを誤誘導する、学者として問題ある姿勢だといえましょう。
それが事実なら、あさましく、かなしいですね。
また、シンポジウムの席上で大阪大の法医の先生が、病理学会理事長に診療関連死に関する死因究明に関する意見を求めたら、「院内調査で実施する」と答えたそうです。それを傍聴していたAi学会理事長は、「診療関連死に関しては、解剖をベースにした死因究明制度はもはやメインには置かれていない」ということがはっきりしたと言っています。
もはや、解剖は死因究明の社会制度の土台には置けないシステムになったことは、ほぼ明らかです。
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さて先日、日本医療小説大賞の選考委員を務めました。
第三回は久坂部羊先生の『悪意』(朝日新聞出版社)が受賞しました。受賞式は華やかで、二次会は久坂部先生の友人が出席し、とても楽しいものでした。久坂部先生、おめでとうございます。医師と患者の相克を書き上げた力作ですので、みなさまも是非ご一読を。
この賞は、日本医師会の英断、そして新潮社の協力によって立ち上がった新しい文学賞です。
久坂部先生はかつて著作で医師会の悪口を書いたので、こんな賞をもらえるとは思わなかった、と挨拶で言っていました。確かに、自分の組織に対して悪口を書く作家に賞を与えるという度量は、めったにみられるものではないのかもしれません。
ご挨拶で「これからは医師会のいいところも小説にします」とおっしゃったのに対し、「いえいえ、これからも問題があったら悪口を書き続けてください」と医師会代表の副会長の返礼がなかなかこじゃれておりました。
こういう姿勢は自由闊達な言論を守るための、大切なことだと思います。