海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2014.06.17 2014:06:17:14:00:11

日本医療小説大賞と「死因究明学講座」の創設に関する所感

 講演会で渡辺先生は宣言通り、きっちり一時間三十分お話しをされましたが、「怒ると血がどろどろになる。血をさらさらにして健康に生きましょう」などと、健康食品の広告塔みたいな講演内容だったのを鮮明に覚えています。少なくとも医師という肩書きがなくても話せる内容、いや、医師という肩書きで話したら少々気恥ずかしいと思えるような内容に思えました。

 

 ちなみに二番目に話をされた加藤諦三先生は私に気を遣ってくださったのか、五十分で講演を切り上げてくださいました。

 

 

 渡辺先生はいろいろと、毀誉褒貶のあった先生ですが、少なくとも女優の方のコメントとか読むと、ものを言うことができない後輩の文学者に対する態度とはまったく別の、優しいお顔が見えてきます。多くの方が指摘されている通り、女性に対しては素晴らしい先生だったのでしょう。そしてきっとそれでバランスが取れているのでしょう。

 

 文壇を代表される先生だということは衆目の一致したところであり、現在の文壇が地盤沈下をしていて出版界が低迷しているとしたら、その大きな責任は渡辺先生の姿勢にもあった、と考えるのが正しい評価ではないでしょうか。

 

 いいことばかり書いたのでは渡辺先生の供養にもならないのではないか、と思います。

 

 いろいろ書きましたが、所詮は文壇村の小さな顰蹙ごとであり、渡辺先生はおそらく天国に行かれたことは間違いないと確信しております。

 

 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

 今回の二つのエピソード、第二回医療小説大賞が受賞作なしだった、という過去の結果と、大阪大学の死因究明学旗揚げに関する話題には、ある共通点があります。「従来の権威の妄執が、新しい分野が花開くのを阻害する」ということです。そうした頑迷な態度の結果、市民のこころがその分野から離れてしまうのです。

 

「大家の妄執」を排除できない場合、次にくるのは「分野の衰退」です。そんなだから、解剖はいくら掛け声を上げても実施数が増えず、分野を支えようという人材も来ないし、既存の文学賞が「本屋大賞」みたいな新興企画に惨敗してしまうような、ていたらくになってしまうのです。

 

 

 作家という人種は、たとえ人々の良識から非難されても、言いたいことを言い散らすというのが性癖であるかと思ってきました。でも最近、自分のだらしなさを露悪的に書く作家はいても、社会問題とか業界の因習について攻撃する作家は少ないように思います。

 

 ああ、情けない。

 

 

近況です。

 

1)『アクアマリンの神殿』(KADOKAWA)は6月末刊行です。足かけ二年でテキストだけで14校したからもう大丈夫と思ったら、ゲラになってまた五校でようやく校了しました。ここまでくるともう、文学って遼遠だなと、ひとごとのように言うしか......。

 

2)週刊新潮『スカラムーシュ・ムーン』、好評連載中。ゴールは完全に見えました。しかし、我ながらものすごい大風呂敷で畳むのが大変。

 

3)6月1日、一橋大学の「KODAIRA祭」で講演しました。好天の中、満員の会場からの質疑応答だけで一時間半、という画期的なトークショーとなりました。楽しかったです。

 

4)BS日テレで『コージ魂』に出演します。テレビは久しぶり。極楽とんぼの加藤浩次さんがキャストを務める一時間のトーク番組ですが、台本なしのいきあたりばったり、というのが魅力でお受けしました。まるまる一時間半、大変楽しくお話しさせていただきました。放映は6月29日(日曜)夜十時かららしい。お楽しみに。

 

5)7月21日(海の日)は14時から、全国病児保育研究大会at大手町キュリアンで講演会です。タイトルは、「医療が守るもの、社会が守るもの」

 

6)8月22日は、日本医師会学生交流会で講演します。その後懇親会もあるようです。詳細は後日。

 

7)8月23日は岡山市民大学で講演をします。詳細は後日。

 

8)9月14日は第55回日本母性衛生学会in幕張メッセ、講演タイトルは「ジーン・ワルツの世界」。でもこの学会、講演をお引き受けした昨年末はホームページで過去の学会の記事が読めたのに、今は昔の記事が読めなくなってしまっています。

 なぜに55回なのか。ちょっぴり不安ですが。

 

                       2014年6月9日 海堂尊

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