海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2011.02.03 2011:02:03:10:58:05

映画「ジーン・ワルツ」公開、そしてついに厚生労働省がAi に予算をつけた

焦点は、委員が全員一致で納得している「Aiに国費負担を」という積極的文言が入るかどうか。でもここが問題視されているのはおかしな話で、検討会の委員が全員一致しているんですから、揉める部分ではないわけで。門田座長もその方向で、という指示は出しているので、ということは、事務局が難色を示しているとしか考えられません。医師会が推進しようとしている、小児死亡全例のAi実施が推進されるかもひとつの注目点です。

 

そんな中、平成23年度予算案・厚生労働省医政局PR版が公表されました。その最終項目で「その他」項目の中に「(6)死因究明体制の充実に向けた支援」があり、そこには「異状死ならびに診療関連死の死因究明を進めると共に、死亡時画像診断の取り組みを促進させるため、医療機関等に対する支援を行う」とあります。1億9800万。

 

これは、前政務官の足立信也議員の尽力と、現政務官の後押しの賜物ですね。少なくとも厚生労働省が公式に、診療関連死問題と死亡時画像診断を並立で認識し、推進しなくてはならないと公言したに等しいわけで、とても大きな一歩です。でも、検討会でのごにょごにょした動きを見ていると、まだまだ安心はできません。これはきわめて官僚的な文法に則った文章で、三つの案件が並立されてしますが、その内訳は予算の大半は、おそらくモデル事業の後継組織の医療安全調査機構に流すことになると予想されます。

 

ここで考えていただきたいのは、この文章についてです。「異状死ならびに診療関連死の死因究明を進めると共に、死亡時画像診断の取り組みを促進」とあるので、

 

①異状死の死因究明、②診療関連死の死因究明、③死亡時画像診断の取り組みが三つ併記されているわけです。

 

さて、日本の死者は現在、110万人といわれています。①の異状死は16万人、②の診療関連死はきちんと統計数字がないので明瞭には言えませんが、1万人とも2万人ともいわれています。

 

そして③死亡時画像診断は、①も②も含む、それどころか、日本の死者100万人すべてにかかわるものです。

 

ここに分配される予算が約2億円。これまでは実は、②の診療関連死の死因究明について、1億円を越える予算がついてきました。すると、今回もそうした比率で分配される可能性が高いと思われるのですが、これっておかしいと思いませんか。ましてや、その企画はモデル事業と称してこれまで5年間で6億円を超える予算を投じながら、結局全国展開できない仕組みで、全面見直しを必要とされた、つまりモデルとしては失敗した事業のわけです。

 

診療関連死、2万人、異状死16万人、死亡時画像診断が関わる可能性のある遺体、100万体。

 

この比率を忠実に配分すれば、診療関連死に2000万、異状死に5000万、死亡時画像診断に1億3000万くらいの配分が妥当でしょう。なぜなら、死亡時画像診断に投じた予算の一部は、診療関連死にも、異状死の部分にも適用可能なわけですから。

 

こうならなければおかしいというのは、次のグラフ的な表を見ていただければ一目瞭然です。

 

異常死16万体 ←法医学者はここにしか興味がない    診療関連死(1万? 2万?)→

日本の死者、100万人  すべてにかかわるAi(医療従事者が責任を負う)

  


そしてもしそのような比率でなかったとしたら、その時は厚生労働省の予算の分配の仕方に、大いなる問題がある、と考えざるを得ません。こうした予算は、もともと我々の払った税金が原資です。一部の人たちの考えで、そうした貴重なみなさんの税金をねじ曲げて使ったら、厚生労働省の担当部署だけでなく、その部署を支えるために理論武装を提供する学会上層部まで、市民の支持を失うでしょう。

 

しかしこれで、Aiに費用がつくまでは提唱者としての責任がある、という私が自分に課した責務は完了したのではないか、と思います。あとは、現場でがんばってくださっている医療従事者のみなさんのバックアップに務めようかと。

 

海堂尊のAiプロジェクトは、一応これで一区切りがつきました。これからは放射線学会のみなさんが、自力で業務を続けていけるよう、しっかり権利を主張し、義務を果たすことで市民社会に貢献していってください。学会上層部の偉い先生方、くれぐれも目先の小さな利益に目を眩ませて本筋を枉げないようにお願いします。なぜならそれは先生方の後に続く、未来の優秀な後輩たちに要らぬ苦労を背負わせることになるからです。放射線学会は、病理学会のようにならないでくださいね(笑)。期待してます。

 

学会上層部は裏切るかもしれませんが、最前線の医療従事者と市民のみなさんは裏切らないでしょう。なぜならAiに関しては、これまでまったく行政の後押しがなかったにもかかわらず、各地で自律的、自発的に推進されているからです。モデル事業のようにカネをたっぷりつけても全然推進されないシステムとは正反対。これは市民の願いに医療現場が自発的に対応した結果にほかなりません。

 

市民の願いと医療現場の対応が一体化する、こうした流れを決して堰き止めてはなりません。市民と医療従事者はAiの意義を理解してしまった。彼らが一丸となって死因究明制度に無理解な行政に働きかければ、市民が笑顔になれる日は近いでしょう。

 

ちなみに、こうした動きをきちんとサポートしてくれたのは行政でも、学会上層部でもありませんでした。意識の高い政治家と、日本医師会、そして市民のみなさんの支持でした。この中では特に日本医師会の存在は、もっと正当に評価されていいのではないでしょうか。

 

というわけで、私がAiにかかわった総決算的書物が出ます。タイトルは『ゴーゴー、Ai』。サブタイトルはアカデミズム闘争4000日。これまでどこにも類書がない、ということだけは胸を張って言えます。

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