海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2010.03.09 2010:03:09:18:42:57

ふたつのAi関連ニュースが示す、官僚主導の死因究明制度再構築の危うさ

 おまけにそうなるとAiに関しては、厚生労働省が東大病理学教室に委託した研究班の枠組みで「Aiは解剖の補助検査」ということにされているので、実質Aiに支払われる補助金はほぼ0円査定されてしまう。こんな枠組みを容認するなんて、厚生労働省のAi研究班に参加していた放射線科医の先生たちは、いったい何をやっていたんでしょうか。確か、放射線学会の理事長もメンバーにいらしたはずですが。

 厚生労働省は法医学教室と連携しているAiには金を出すが、そうでないところには金を出さないよ、と言っているわけで、これはたぶん、警察庁の検視検討委員会で強く責められたからやったことではないかと勘ぐってしまいます。

 今、この社会で一番の権力者は司法です。政治家なんかじゃありません。その証拠に大メディアは司法批判をほとんどしません。権力批判はメディアの本懐のはずですが、大新聞を始めとした大メディアほど、牙を折られた捨て犬みたいにしっぽを丸めているわけです。ははは。

 Aiに費用をもらえなくても損しない施設、それは法医学関連の施設です。何しろ彼らは解剖が主体でAiを読影せず、ただ撮像するだけ。するとこれは厚生労働省から法医学教室への献金のようなものでしょう。法医学者は医療に近接した司法関係者だから、権力者の威を借りてものを言うので、厚生労働省官僚はびびってしまったのでしょうか。

 その裏で放射線科医は診断を投げられ、タダ同然の読影料でこき使われることになる。それが「死亡時画像診断システム整備事業も併せて実施する」という一文の意味する真意です。放射線学会理事のみなさん、厚生労働省はみなさんの意見を聞かずにこんなものを作ろうとしていますけど、本当にいいんですか?

 これは現在の放射線学会理事の先生たちの、Aiに対する不見識が招いた事態ですから自業自得ですが、若手の放射線科医のみなさんはかわいそうです。このまま座視していると、将来若手の先生たちがワリを食うことになります。

 残念ながら私にできることはここまで、いち早く問題提起をするだけです。

 こうなるのを恐れていた故に、私はこれまで厚生労働省の班研究の枠組みを批判し続けてきたのです。とうとうなりふり構わずに、厚生労働省がAi導入に関して暴走を始めてしまいました。上記の警察庁主導の検視検討委員会も、必ずAiについて言及してくるでしょう。つまり官僚たちが、Aiを医療現場でタダ働きさせようと一斉に蠢きだしたという状況の兆しが見事なまでに明らかになったわけです。そしてそれはただでさえマンパワーが不足して崩壊寸前の医療現場をさらに疲弊させ、ミスした時にはメディアによる集中砲火攻撃を受けるという、暗澹たる未来像が見え隠れしています。

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