海堂尊 - 第四回『このミステリーがすごい!』大賞(『このミス』大賞)大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』の著者

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2009.12.11 2009:12:11:21:13:26

モデル事業は完全に崩壊した。

 遺族が望む死因究明制度は、監察医制度でも、病理解剖制度でも、モデル事業でもなかった。それはAi センターによる医療情報と遺族のコンタクトによる納得だったのです。
 こうした事態が明瞭になった象徴的な事件がありました。
 名古屋大学医学部で、肺高血圧症で亡くなった1歳男児の事件が、12月8日、フジテレビ・スーパーニュースで報道されました。これは現在の解剖主体の死因究明制度がもたらした、悲しむべきシステムエラーの典型的な話です。
 テレビ報道によれば、肺高血圧症の嚥下性肺炎の予防のため手術をされた一歳半の男児が、手術の二日後に死亡してしまったのですが、問題はそのあとです。死因に不審を抱いた遺族は医療事故を疑っていました。そこで名古屋大学医学部で、解剖を持ちかけたのですが、病院に不信感を抱く遺族は病院による病理解剖を拒否しました。遺族は死因究明を求め、第三者による解剖を求めたのですが、名古屋大学医学部はこれを拒否、このため三ヶ月間、男児の遺体は遺体冷蔵庫に保存され、一日二万円の冷蔵庫使用料を要求されたというものです。これが新聞報道されるや、名古屋大学は態度を一変させ、冷蔵庫使用料も取るのを止めたとのこと。こういう事例を見るたびに、医療にはいい医療がたくさんある、と現場を擁護している私は肩身の狭い思いをさせられます。名古屋大学医学部付属病院のような態度が、医療の信頼を損なうのだと思います。
 この事例は、解剖を主体にすると遺族が拒否感を示し、遺族が望むような検査ができないということになってしまうという実例を如実に現したものです。

 ところで名古屋でこうした問題が起こったというのは、現在の解剖主体の死因究明が内部崩壊している象徴です。
 まず、名古屋市は全国で五カ所しかない監察医制度が置かれている都市です。本来なら、こうした事案は監察医が対応すべきでしょう。しかし、名古屋市の監察医制度はまったく機能しなかった。名古屋市は監察医制度指定都市を返上すべきでしょう。そうなると監察医制度を全国展開せよ、という法医学会の一部の先生方の主張は根底から崩壊します。五都市しかない監察医制度が敷かれた都市のうち、一カ所が現実的に稼働していないというのでは、そのシステムの全国展開は不可能です。
 これでまず監察医制度が崩壊です。
 次に、名古屋にはそういった時に有効に機能するはずの、外部からの解剖を引き受ける医師会を中心としたご自慢の剖検システムがあり、藤田保健衛生大学の黒田誠教授などは、そのシステムの素晴らしさをあちこちの講演会で喧伝しています。ちなみに黒田教授は病理学会におけるAiに対する姿勢を決定するパブコメの原案作成などに大いなる役割を果たされました(「Aiを行ったら必ず解剖で確認するようにしなければならない」という趣旨の意見)。そして医師会の Aiに関する検討会では、病理学会から派遣された委員でもあります。ところが残念ながら、ご自慢のこのシステムがこのケースではやはりまったく機能しませんでした。地域主導の解剖システムが、市民の要望に応えられなかった、ということになります。
 これで医師会主体の解剖システムが事実上、遺族の要望に応えられていないシステムであったことが明らかになりました。
 三番目。モデル事業の崩壊です。愛知県は、医療事故に関するモデル事業に平成17年9月という初期から加入しています。この案件などは、まさしく医療事故を疑うために第三者機関を発動するというモデル事業で対応しなくてはならなかった事案でしょう。
 モデル事業が、まったくの空理空論だったということが、現実に証明されてしまったわけです。
 モデル事業が現実に稼働しなかったわけで、これでモデル事業が完全崩壊してしまいました。
 この三つ、共通点は、「解剖を土台に据えた死因究明制度」ということです。その三つのどれもが、遺族の願いに対応できなかった。その願いとは、死亡した患者がどうして亡くなったのか、納得のいく説明をしてほしい、というものでした。
 
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